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法螺男爵旅土産 cover

法螺男爵旅土産

Chapter 17: 鰕えびの木きの話はなし
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About This Book

A series of humorous travel anecdotes presents a first-person narrator's improbable mishaps across sea voyages and winter journeys, told with deadpan irony. Episodes range from a storm that lifts trees bearing produce and accidentally topples a local despot, to a lakeside crisis where a lion and a crocodile clash over the narrator and are dispatched in a surreal rescue, to waking with a horse tied to a church weathercock. Additional tales of sled travel, wolf chases, and other comic misadventures mix tall-tale exaggeration, observational satire, and physical comedy.

 此方こつち臼砲きうはう先方むかふ臼砲きうはうとのほとんど中途ちゆうとぐらゐのところで、さうはう彈丸たま猛烈まうれついきほひ行當ゆきあたつた。 結果けつくわじつおどろきもので、る〳〵先方せんぱう砲丸たまおそろしいいきほひ退却あとじさりはじめ、發砲はつぱうしたをとこあたまばし、行當ゆきあた次第しだいに十いう餘人よにんたふして、對岸たいがんアフリカしうのバーバリーにたつした。 バーバリーにとゞいたころは、すでに一れつならむでゐた軍艦ぐんかんマストを三ぼんまで貫通くわんつうして、大分だいぶちからけてゐたから、わづかにいつ日傭取ひようとり小屋こや屋根やねつらぬき、をりからくちいて晝寢ひるねをしてゐたその老妻らうさいしのを二三ぼんくだいて、つひその喉頭こうとうとまつた。 もなく亭主ていしゆかへつてて、たま拔取ぬきとらうとしたが、とて駄目だめなので、㮶杖こみやもちゐて押落おしおとしてしまつた。 拙生せつせい砲彈はうだんじつ偉大ゐだいこうさうした。 たゞ敵彈てきだんはねかへしたのみならず、拙生せつせいども狙擊そげきした臼砲きうはう拂退はらひのけて荷倉にぐらみ、ちからあまつて船底ふなぞこつらぬいた。 ふね浸水しんすゐして、乗組のりくみ西班牙スペイン水兵すゐへい一千、ならび多數たすう陸兵りくへいともそこ藻屑もくづとなつてしまつた。 これまこと異例いれい功績こうせきである。 しかりといへども、拙生せつせいは一この勲功くんこうわたくししない。 拙生せつせい判斷はんだん主動しゆどうであつたが、僥倖げうかうまたあづかつてちからがある。 のちところによれば、が四十九臼砲きうはう發射はつしやした砲手はうしゆは、なにかのかんがちがひで二ばい火藥くわやくめたといふ。 まつたうでゞもなければ、敵彈てきだんはじかへなどといふ豫想外よさうぐわい成功せいこうしてをさめられるものでない。

 この獨得どくとくなる勞役らうえき効果かうくわみし、將軍しやうぐん將來しやうらい拙生せつせいおももちゐたいといふことであつたが、拙生せつせいなに固辭こじして、そのゆふべ將校しやうかうどうとも晩餐ばんさん食卓しよくたくいたときたゞ鄭重ていちようなる感謝かんしやだけをけた。

海馬たつのおとしごはなし

 拙生せつせい有名いうめい石投いしなげちゝから直接ちよくせつ受繼うけついだものである。 これいて拙生せつせいちゝからつぎ物語ものがたりいたことがある。

 ちゝれい石投いしなげをポッケットにれてハーウイッチの海岸かいがん散步さんぽしてゐた。 一まいるとはかぬうちかれ海馬たつのおとしごといふおそろしい動物どうぶつおそはれた。 大口おほぐちいていきほひまうびかゝつたといふ。 かれ一寸ちよつと度膽どぎもかれたが、たゞちに百ヤードばか退しりぞき、いし二個ふたつひろめにかゞむだ。 もとより海岸かいがんことだからいし澤山たくさんある。 かれ石投いしなげめるよりはや動物どうぶつ目蒐めがけてけたところねらたがはず兩方りやうはうまなこあたり、たま飛出とびで拍子ひやうしに、いしそのあと聢乎かちりはまむだ。 そこでかれその動物どうぶつまたがつてうみ乗込のりこむ。 海馬たつのおとしごまなこうしなふと同時どうじその猛惡まうあく性質せいしつうしなつて、きはめて從順じうじゆんになつたといふ。 ちゝれい石投絲いしなげいと手綱たづなとして動物どうぶつくち宛行あてがひ、わけもなくうみわたり、三時間じかんとはたぬうちに、やく三十リーグの對岸たいがんいた。 ホルランド、ヘルベツルイスの三盃みつさかづききみこの海馬たつのおとしご公衆こうしう縦覽じうらんきようしたいとてつての懇望こんまう。 そこでちゝは七百ダカットすなはち三千ゑん値賣ねうりをして、翌日よくじつ御用船ごようせんでハーウイツチにかへつてた。

えびはなし

 拙生せつせいちゝ海馬たつのおとしごつて英國えいこく海峽かいけふ橫切よこぎり、ホルランドへつたたびうち重要だいじ部分ところはなおとした。 間違まちがひのないやうにちゝ言葉ことばりておはなししよう。 ちゝこのはなし幾度いくたびとなく友人いうじんはなし、その都度つど拙生せつせいうけたまはつたから、たしかなものである。 で、つぎ拙生せつせいとあるはちゝことである。

 ヘルベツルイスに到着たうちやくしたとき拙生せつせい呼吸いきづかひがくるしくえたさうだ。 如何どうしたわけかと土地とち人々ひと〴〵くから、じつ拙生せつせいのハーウイッチからつてまゐつた動物どうぶつは、およいでたのではないとこたへた。 彼等かれら特性とくせいとして、彼等かれら水面すゐめんうかことおよこと出來できぬ。 彼等かれらきしからきしまで海底かいていすなうへ千萬せんまん魚類ぎよるゐおどろかして、はなしてもうそのやうな速力そくりよくはしる。 その魚類ぎよるゐ大部だいぶぶん尻尾しつぽ尖端さきあたまがついてゐるといふ工合ぐあひで、拙生せつせい懇意こんいにしてゐたさかなとは大分だいぶ形狀けいじやうことにしてゐる。 拙生せつせいたかさアルプス山脈さんみやく伯仲はくちうあひだにある岩脈がんみやく通過とほりこした。 この海底かいてい山脈さんみやく最高所さいかうしよ水面すゐめんから百ひろ以上いじやうとのことである。 山腹さんぷくいたところ大樹たいじゆ喬木けうぼくしげり、えびかに帆立貝ほたてがひはじめとして其他そのほかありとあらゆる海產物かいさんぶつえだしぼつてつてゐる。 其中そのなかにはたゞ一個ひとつで、くるまおろ牛車うしぐるまにもねるやうな大物おほものがある。 漁師れふしかゝつてうを市場いちばるのはきはめて劣等れつとう種類しゆるゐで、まさ波落なみおちといふ代物しろものである。 果樹園くわじゆゑん果物くだものかぜおとされたものを風落かざおちび、むしおとされたものを蟲落むしおちしようするがごとく、この海產林かいさんりんなみあたつてえだからふるおとしたものを波落なみおちといふ。 田螺たにしるゐ蔓木つるぎで、かきしたえる。 あたかつたかし卷付まきつくやうにかきからむで、田螺たにし零餘子むかごのやうにつてゐる。 拙生せつせい處々ところ〴〵破船はせん結果けつくわた。 其中そのなか水面すゐめんから三ひろばかりの岩山いはやま突當つきあたつて沈沒ちんぼつしたふねがあつた。 しづとき船側ふなばらしたになつて、其處そこえてゐたえび根拔ねこぎにしたとえる。 それはるえびあをころであつた。 はげしい震動しんどうめに、えだはなれて、したえてゐたかにえだちた。 そこで植物しよくぶつ花粉かふんのやうにかに結合けつがうして、かにともつかずえびともつかぬ一しゆ異樣いやうさかなになつた。 拙生せつせい參考さんかうめに一ぴきつてかうとおもつたが、厄介にやくかいになるうへに、拙生せつせい海中かいちうペガサスはしきりにいそぎ、いやしくもたびおくれさせるやうなこと絕對的ぜつたいてきこばむやうにえたから、不本意ふほんいながら斷念だんねんした。 當時たうじほとんど旅程りよてい中間ちゆうかんたつし、ふかさ五百ひろの一岩山がんざんはしつてゐて、空氣くうき缺乏けつぼふをソロ〳〵くるしくかんはじめたから、餘計よけい仕事しごと手間てまなかつた。 のみならず拙生せつせい立場たちば方面はうめんからてもはなは不愉快ふゆくわいであつた。 拙生せつせい幾多いくた大魚たいぎよ出會であつた。 ひらいたくちによつてさつするに、彼等かれら拙生せつせいこと出來できるばかりでなく、たしかに呑込のみこつもりとえた。 拙生せつせい*ジナンテは盲目めくらであるから、拙生せつせいくるしいなかにもをつけてこのしゆ動物どうぶつ警戒けいかいせねばならなかつたのである。

*ガサスはベラーオホンのつたつばさのある駿馬しゆんめ、ロジナンテはドンキホーテの愛馬あいばである。

白熊しろくまはなし

 我等われらはキヤプテン、フイリップ(いまはマルグレーヴきやう)の北極ほくきよく探險たんけん旅行りよかうみな承知しようちしてゐる。 拙生せつせい士官しくわんとしてゞなく、私友しいうとしてキヤプテンに同行どうかうした。

 北緯ほくゐおほいせまつたとき拙生せつせいさきのヂブラルターの冒險ぼうけんせつ紹介せうかいした望遠鏡ぼうゑんきやうもつ周圍あたり風物ふうぶつ瞻望せんぼうしてゐた。 すると拙生せつせいはんリーグばかりの彼方あなたに、ふねマストよりもたか氷山ひやうざんうへで、白熊しろくま白熊しろくま喧嘩けんくわをしてゐるのを見付みつけた。 で、拙生せつせい早速さつそくじうつてかたかつぎ、こほりやまのぼはじめた。 頂上ちやうじやうたつしたとき表面へうめん凹凸おうとつたゞならず、動物どうぶつ近寄ちかよこと困難こんなんであつたばかりか、はんかたなく危險きけんであつた。 ときにはそこれぬ隙目われめみちさまたげる。 其樣そん場合ばあひにはねむつて飛越とびこほかすべがなかつた。 ときには表面へうめんかゞみのやうになめらかで、あるくよりはすべはうおほかつた。 彈丸たまとゞちかくにると、くま咬合かみあひでなく、巫山戯ふざけつてゐたのである。 拙生せつせい少時しばらくその毛皮けがは價値ねうち胸算用むなさんようしてゐた。 各々おの〳〵えた雄牛をうしぐらゐおほきさである。 不幸ふかうにしてじう差出さしだ刹那せつな拙生せつせいみぎあし踏辷ふみすべらせて、仰向樣あふむけざま顚覆ひつくりかへつた。 正氣しやうきかへつたときにはすでべたるこの怪物くわいぶつの一ぴきが、拙生せつせい覆重おひかさなり、拙生せつせいのズボンの帶革バンドつかみ、あしまへかしらうしろといふふうに、拙生せつせい鞄吊カバンさげにげてところであつたから、その驚愕おどろきさつしてもらひたい。 拙生せつせいこのときすこしもさわがず、上着うはぎのポッケットから短刀たんたうるよりはやく、せずにくま後足うしろあしをちよきつとると、ゆびが三ぼんばらりとちた。 かれ立所たちどころ拙生せつせいはなして、くもおそろしくたけつた。 拙生せつせいたゞちにじうつてげてところつと、たま急所きうしよあやまたず、さしもの猛獸まうじう即座そくざたふれた。 さてじうひゞきはんまいる以内いないねむつてゐた白熊しろくまことごとおこした。 いま彼等かれらこぞつて拙生せつせいもとあつまつた。 まこと咄嗟とつさあひだである。 進退しんたいきはまをとこだといふかもれぬが、拙生せつせいまつた進退しんたいきはまところであつた。 しかしあたかし、このとき拙生せつせい腦細胞なうさいぼう仕合しあはせな奇智きち湧上わきあがつた。 拙生せつせい常人ひとうさぎ時間じかん半分はんぶんで、んだ白熊しろくまかはぎ、手早てばや其中そのうちかくし、くまあたまから頭巾づきんのやうにてきのぞいた。 拙生せつせい計畫けいくわく自家じか防衞ぼうゑいうへ大成功だいせいこうであつた。 彼等かれらみなはなをクスン〳〵いはせて拙生せつせいまはし、明白あきらか拙生せつせい兄弟分きやうだいぶん心得こゝろえてゐる。 拙生せつせいまたつとめて猫背ねこぜになつて、こと露顯ろけんふせがうとした。 しかしながら拙生せつせいこのくま大部分だいぶぶん拙生せつせいよりもちひさいといふことがついた。 彼等かれら拙生せつせい凝視ぎようしし、つぎ拙生せつせいかはがれた朋輩ほうばい死骸しがい凝視ぎようししてから、我等われらきはめて社交的しやかうてきえた。 拙生せつせいたくみに彼等かれら動作どうさくま眞似まね眞似まねすること出來できたから、おほい羽振はぶりいたのでもあらうが、うなことえること相撲すまふことにかけては、彼等かれらうしても拙生せつせい先輩せんぱいであつた。 とき拙生せつせいくして彼等かれらあひだつくつた信用しんよう如何いかにして利用りようすべきかとかんがはじめた。