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法螺男爵旅土産 cover

法螺男爵旅土産

Chapter 21: 月つき世界せかい旅行りよかう談だん
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About This Book

A series of humorous travel anecdotes presents a first-person narrator's improbable mishaps across sea voyages and winter journeys, told with deadpan irony. Episodes range from a storm that lifts trees bearing produce and accidentally topples a local despot, to a lakeside crisis where a lion and a crocodile clash over the narrator and are dispatched in a surreal rescue, to waking with a horse tied to a church weathercock. Additional tales of sled travel, wolf chases, and other comic misadventures mix tall-tale exaggeration, observational satire, and physical comedy.

 脊柱せきちうきずたゞちにひところすといふ。 これねて老軍醫らうぐんいからいたことである。 で、拙生せつせいは一つこのせつ試驗しけんしてになつて、ふたゝ短刀たんたうけ、あそたはむれるふりをしながら、一ばんおほきなやつ首筋くびすぢをぐさりとした。 ——もつと仕損しそんじたには、かれたゞちにかゝつて、拙生せつせい微塵みぢんくだらうとしかおもへぬから、いや拙生せつせい心痛しんつうじつに一とほりや二とほりでなかつた。 がかれすこしもおとてずに拙生せつせい足下あしもとたふれたときじつうれしかつた。 そこで拙生せつせいあぢめて、おな方法はうはふによつて一ぴきのこらずころ決心けつしんをして、些細ささい困難こんなんもなく成功せいこうした。 彼等かれら同輩どうはい拙生せつせいさはごとたふれても、一かう原因げんいん結果けつくわうたがはなかつた。 てきこと〴〵拙生せつせいまへたふれたとき拙生せつせいだい二の*ムソンになつたやうな心持こゝろもちがした。

 それからさきこと簡單かんたん辻褄つぢつまつければ、拙生せつせいふねもどつて船員せんゐんの三ぶんの一をり、手傳てつだつてもらつてかはぎ、ハム甲板かんぱんはこむだ。 何分なにぶん大人數おほにんずうことであるから、この仕事しごとは三十ぷんばかりで片付かたづいた。 ほか部分ぶぶん悉皆すつかりうみてゝしまつたが、しか仕舞しまひをつければハム同樣どうやう食料しよくれうになつたこと拙生せつせいがううたがひれぬところである。

*ムソンは舊約きうやく全書ぜんしよ人物じんぶつ剛力がうりきあり。

捕虜ほりよすくひたるはなし

 拙生せつせいはヂブラルターからかへつて、英國えいこくめにフランスをとほつた。 外國人ぐわいこくじんことであるから、所謂いはゆるたびはぢてゞ、別段べつだん不都合ふつがふにも出合であはなかつた。 カレーのみなと拙生せつせいは、戰爭せんさう捕虜ほりよになつた英國えいこく水兵すゐへいせて到着たうちやくしたばかりのふねた。 拙生せつせいたゞちにこの勇敢ゆうかんなる軍人ぐんじん自由じいうあたへてやりたいといふ義俠心ぎけふしんおこし、つぎごとくにして美事みごと成功せいこうした。

 ながさ四十ヤードはゞ十四ヤードといふおほきなつばさを一つゐこしらへて、拙生せつせい萬象ばんしやういまゆめからめぬあさぼらけ、いな甲板上かんぱんじやう番兵ばんぺいまでがねむつてゐるころに、大空おほぞらたかあがつた。 つぎふねうへさがつて、かぎ使つかつてれい石投いしなげいとを三ぼんマスト頂點ちやうてん結付むすびつけ、船體せんたい水面すゐめんすうヤードのところ引上ひきあげてドーバーをして海峽かいけふはじめ、三十ぷんにして無事ぶじ到着たうちやくした。 最早もはや此上このうへつばさようもないから、それ其儘そのまゝドーバーの城主じやうしゆ獻上けんじやうした。 いままで博物館はくぶつくわん參考品さんかうひんとしてのこつてゐる。 ドーバーへつたら是非ぜひたまへ。

 捕虜ほりよおよそれ護送ごさうしてゐた佛國ふつこく軍人ぐんじんは、ドーバーへいてから二時間じかんなんなんとするまでまさなかつた。 英人えいじん事情じじやうるやいなや、たゞちに佛人ふつじん地位ちゐへ、捕獲ほかくされた物品ぶつぴん取戾とりもどした。 彼等かれら寛大くわんだいであるからすゝむで報復的はうふくてき新捕虜しんほりよ所有物しよいうぶつかすめるやうなことはしなかつた。

獵犬れうけんトレイのはなし

 拙生せつせい船長せんちやうハミルトンとともひがし印度いんど諸島しよたう航海中かうかいちう、トレイといふ愛犬あいけんれてゐた。 かれ嗅犬ポインターけつして拙生せつせいあざむいたことがないから、下世話げせわまをつちしようかねしよう體重めかたけを貴金きんはらふからといはれても、手放てばながた尤物いうぶつであつた。 或日あるひ我等われら觀察くわんさつによれば陸地りくちからすくなくとも三百リーグのところで、トレイはえもの嗅付かぎつけた。 拙生せつせい驚愕きやうがくあまり、ほとんど一時間じかんといふもの、かれ樣子やうす見守みまもつて、船長せんちやうならび乗組のりくみ船員せんゐん拙生せつせい愛犬あいけん獲物えもの嗅付かぎつけた以上いじやうは、すで陸地りくちちかいのだらうと、こと次第しだいはなしてかせた。 このはなしは一どう大笑おほわらひつたが、わらはれたからといつて、拙生せつせいのトレイにたいする信用しんよう秋毫しうがうかはらぬ。 押問答おしもんだふすゑ拙生せつせいこのふね船員せんゐん全體ぜんたいまなこよりもトレイのはな信用しんようくと大膽だいたん言放いひはなち、すゝむでは、半時間はんじかんうち獲物えもの見付みつからぬやうなら、拙生せつせい船賃ふなちんけの金額きんがくすなはち百ギニイを進呈しんていすると申出まをしでた。 船長せんちやうひとをとこで、たゞわらふばかりで本氣ほんきにしない。 そして船醫せんいのクローホートくんたのむで拙生せつせいみやくさせた。 クローホートくんたのまれなくても職分しよくぶんじやう是非ぜひおう診察しんさつせねばならぬといふ意氣込いきごみで、拙生せつせいみやくはかつたが、拙生せつせい健康けんかう異狀いじやうのないこと明言めいげんした。 つぎ會話くわいわ船長せんちやう船醫せんいあひだおこなはれた。 ひくこゑしか少々せう〳〵はなれてゐたが、拙生せつせいには聞取きゝとこと出來できた。

精神せいしん異狀いじやうがあるのでせう。 わし本氣ほんき此樣こんかけをするになれない。 』『いゝえわたし見立みたてではあたま健全たしかなものです。 矢張やは此船こゝ船員せんゐん判斷はんだんよりはいぬ嗅覺きうかくおもきをいてゐるのでせう。 かけるといふならつたはういぢやありませんか。 先方せんぱうけるにきまつてゐます。 またけるのが當然たうぜんです。 』『いやせんぱうけるにきまつてゐるから、わたしは二のあしむのです。 結果さきえてちやかけになりませんからな。 かくあとかねかへことにして一ばんおどろかしてやらう。 』

 此樣こん談話はなしうちにも、獵犬れふけんおな姿勢しせいをしてゐるから、拙生せつせい尙更なほさらつよくなつて、ふたゝかけうながすと、今度こんど先方せんぱうおうじた。 『よろしい。 』『いとも。 』が雙方さうはうあひだ交換かうくわんされるかされないに、ともつないだ短艇ボートつてつりをしてゐた水夫共すゐふどもが、巨大おほきふかもりけた。 引上ひきあげてあぶらつもりで切開きりひらくと、どうもおどろく、この動物どうぶつ胃袋ゐぶくろなかきてる鷓鴣しやこが六つがひまでゐた。

 彼等かれらなか餘程よほどながあひだゐたとえる。 一牝鳥めんどりたまご四個よついてゐた。 ほ一つのたまごふかひらいたときには丁度ちやうどかへところであつた。 雛鳥ひなどりそれから數分すうふんまへうまれたねこと一しよにしてそだてた。 親猫おやねこ自分じぶんの四つあし同樣どうやうに、へだてなくこのとり可愛かはゆがつたが、それ舞上まひあがつてナカ〳〵かへつてないときには、どくのやうに心配しんぱいさうであつた。 ほか牝鳥めんどりえず一以上いじやうについて、船長せんちやう食卓しよくたくには鷓鴣しやこえることがなかつた。 拙生せつせいはトレイのおかげ美事みごと百ギニーまうけたから、のおれいとしてかれには每日まいにちほね振舞ふるまひ、ときにはとり總身まるごとことにした。

つき世界せかい旅行りよかうだん

 拙生せつせいぎん手斧てをのさがして一つき世界せかいつたことは、すで諸君しよくん御承知ごしようちとほりである。 其後そのご拙生せつせいはもつと愉快ゆくわい方法はうはふふたゝ同地どうち旅行りよかうし、しばら滯在たいざいあひだ種々しゆ〴〵面白おもしろ觀察くわんさつをした。 いまつぎ槪略がいりやく拙生せつせい記憶きおくゆるすだけ精確せいかくにおはなししてたい。

 拙生せつせいとほ親類しんるゐもの依賴たのみによつて、探險たんけん航海かうかいのぼつた。 親類しんるゐといふのはすこぶめう空想かんがへいだいてゐた。 かれしんずるところによると、ガリバーの大人國たいにんこくにあるやうな巨大おほき人間にんげんかならこの世界せかいにあるといふのであつた。 拙生せつせい自分じぶん意見いけんでは大人國たいにんこくつくばなしだとめてゐたが、かれ拙生せつせい財產ざいさんゆづつてくれたから、そのおんほうじのめに、探險たんけん引受ひきうけて南海なんかいむかつた。 南海なんかいいてもべつ珍奇ちんきなものは見當みあたらなかつたが、空中くうちう跳背戯うまとびや、舞踏ぶたふをしてゐる幾群いくむれかのつばさある男女だんぢよ出會であつた。

 キヤプテン、クックがオマイをしたといふオタハイテたうぎてから十八にちのち暴風ぼうふうおこつて拙生せつせいどもふねすくなくとも海拔かいばつ四千リーグのところ吹上ふきあげた。 拙生せつせいども當分たうぶんたかさにいかりおろしてゐると、また大風おほかぜ吹起ふきおこつてといふこと〴〵はらませ、我等われらまはるやうな速力そくりよくたびつゞけた。 くしてすゝこと週間しうかんのちつひ拙生せつせいどもまるひかつてゐるしまのやうな陸地りくち發見はつけんした。 そこで便利べんりのいゝみなとはいり、いで上陸じやうりくし、もなくひとむでゐることたしかめた。 拙生せつせいどもしたには都會とくわい山脈さんみやく森林しんりん川海かはうみとうつた地球ちきうえた。 多分たぶん拙生せつせいどもあとにしてこの世界せかいだらうといふ鑑定かんていであつた。 此處こゝ拙生せつせいどもあたま三個みつある非常ひじやうおほきい禿鷹はげたかつた人々ひと〴〵た。 このとり巨大おほきさは、つばさかた一方いつぱうはゞ拙生せつせいどもつてゐた六百とんふねおほ帆索ほづなながさの六ばいあるとまをしたら、大體だいたい見當けんたうくだらうとおもふ。 我等われらこの世界せかいうまるやうに、月世界げつせかいすで拙生せつせいどもらぬ月世界げつせかいはいつてゐたのである。 )の住民ぢうみんみなこのとりつてあるく。 拙生せつせいども謁見えつけんおほかつた帝王ていわうは、當時たうじ太陽たいやうせんさう最中さいちうで、拙生せつせい是非ぜひ司令官しれいくわん任用にんようしたいとのおほせであつたが、拙生せつせい同伴つれもあることだし、事情じじやうつうじてゐないから、只管ひたすら陛下へいか有難ありがた思召おぼしめし御辭退ごじたい申上まをしあげた。 つき世界せかいでは凡百すべてもの法外はふぐわい巨大おほきい。 一れいまをせばのみひつじぐらゐある。 いや、ひつじよりも少々せう〳〵おほきからうか。 かく其樣そん工合ぐあひだから、みなもつ類推るゐすゐすること出來できるであらう。 戰爭せんさうあたつておもなる武噐ぶき大根だいこんである。 大根だいこん投槍なげやりとしてもちゐ、あれで負傷ふしやうすると即死そくしするといふはなしだ。 彼等かれらたて蕈類きのこるゐ出來できてゐる。 投槍なげやり大根だいこん時節じせつには石刀柏つまばうど先端さきはう代用だいようするさうだ。 此處こゝでは天狼星てんらうせい住民ぢうみんこと出來できた。 彼等かれら商業しやうげふたみ彼地あつち此方こつち漂泊へうはくる。 かほいぬはな頂上てつぺんにあるが、眼瞼まぶたといふものがない。 しかしねむときにはしたばしてふさぐといふ。 身長みのたけ普通ふつう二十しやく月世界げつせかい住民ぢうみんいたつてはほずつとおほきく、三十六しやく以下いか矮小せいつぴく部類ぶるゐはいる。 彼等かれら人間にんげんとはばれてゐない。 料理れうり動物どうぶつといふである。 すなは動物どうぶつではあるが、普通ふつう動物どうぶつことなつて、我等われらのやうにもちゐて食物しよくもつ料理れうりする。 しか彼等かれら食事しよくじめに時間じかんつぶさない。 料理れうりむとひだりはらひらいて一悉皆すつかりみ、つぎつき食事しよくじまでは其儘そのまゝかたぢてく。 彼等かれらねんに十二くわいすなはつきに一以上いじやう食事しよくじらぬ。 大食家たいしよくか食道樂くひだうらくのぞいては、この方法はうはふ簡便かんべんからうとおもふ。