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法螺男爵旅土産 cover

法螺男爵旅土産

Chapter 22: Transcriber's Notes(Page numbers are those of the original text)
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About This Book

A series of humorous travel anecdotes presents a first-person narrator's improbable mishaps across sea voyages and winter journeys, told with deadpan irony. Episodes range from a storm that lifts trees bearing produce and accidentally topples a local despot, to a lakeside crisis where a lion and a crocodile clash over the narrator and are dispatched in a surreal rescue, to waking with a horse tied to a church weathercock. Additional tales of sled travel, wolf chases, and other comic misadventures mix tall-tale exaggeration, observational satire, and physical comedy.

 この料理れうり動物どうぶつには一せいしかない。 彼等かれらみなからうまれる。 料理れうり動物どうぶつよりもうつくしい。 えだ眞直まつすぐ肉色にくいろびてゐるから、一けんして區別くべつく。 胡桃くるみるゐで、ながすくなくとも一ヤードの堅牢けんらうからなかはいつてゐる。 じゆくはじめるといろかはるかられる。 それきはめて丁寧ていねい收穫しうかくして、適宜てきゞ時間じかんたくはへてく。 この胡桃くるみたねかさうとおもときには、たぎつた大釜おほがまなかほうむ。 數時間すうじかんでると、からしゞみのやうにくちいて、なかから料理れうり動物どうぶつ飛出とびだす。

 造化ざうくわまこと妙巧めうこうで、うまれぬまへから彼等かれら心性しんせいしたがつてその職業しよくげふめてく。 すなはだい一のからからは軍人ぐんじんうまれ、だい二のからからは哲學者てつがくしやうまれ、だい三のからからはかみうまれ、だい四のからからは辯護士べんごしうまれ、だい五のからからは百姓ひやくしやうだい六のからからは田舎漢ゐなかものだい七のからからは盜賊どろぼうといふふうで、彼等かれらうまれるとぐに、すで理論りろん承知しようちしてゐるところ實行じつかうつて完成くわんせいとりかゝる。

 としつても彼等かれらなぬ。 空氣くうきくわしてけむりのやうにけてしまふ。 飮料いんれうとしては何物なにものもちゐない。 にはたゞぽんゆびがあるばかり、しかこのゆびもちゐて我等われらが五うごかすよりも完全くわんぜん仕事しごとをする。 彼等かれらあたまみぎうでしたにある。 旅行りよかうをしたりあら仕事しごとをしたりするときは、あたまだけうちいてるのが通例つうれいである。 といふのは遠方ゑんぱうにゐても隨時ずゐじあたま相談さうだんすること出來できる、これ家常かじやう茶番ちやばんことである。 月人げつじんちう高貴かうき者共ものども平民へいみん社會しやくわい出來事できごとりたいとおもときには、うち引籠ひきこもつてゐて、あたまだけを派遣はけんする。 彼等かれらあたまひとにつかぬやうに、何處どこにでもことかなふから、充分じうぶん事情じじやう觀察くわんさつしてかへつてられる。

 此國このくに葡萄玉ぶだうだま宛然さながらへうのやうである。 つき世界せかい大風おほかぜおこつて葡萄ぶだうつるふるひ、たまおとときには、拙生せつせい何時いつ大恐悦だいきやうえつ丁度ちやうど人間にんげん世界せかいへうるやうな光景くわうけいである。 ところ拙生せつせい拙生せつせい同意見どういけん諸君しよくんにおすゝいたすが、今度こんどへうつたときにはたくはへていて、月世界げつせかい葡萄酒ぶだうしゆつくつてたらからう。 重要じうえう見聞けんぶんはなおとした。 それ料理れうり動物どうぶつ我等われらふくろ使つかふやうにはら利用りようすることである。 なんでも必要ひつえうがあるとはらなか仕舞しまむ。 それといふのも胃袋ゐぶくろ同樣どうやう彼等かれら腹部ふくぶ開閉かいへい自在じざいなのである。 しかして彼等かれらあひだには内臓病ないざうびやうといふものがない。 また着物きものは一さいもちゐない。 丸裸まるはだかでゐるけれど、見苦みぐるしいところとては一箇所かしよない。

 彼等かれらまなこ自由じいう自在じざい取外とりはづしが出來できる。 これさきけてもあたま同樣どうやうものこと出來できる。 なにかの過失まちがひうしなつたりそんじたりすると、他人たにんから借用しやくよう出來でき買入かひいれ出來でき自分じぶんことなところなく明瞭はつきりものこと出來できる。 ういふ次第しだいだから、つき世界せかいでは地方ちはうつても商人しやうにんいたつておほい。 そしてまたこの品物しなものかぎつて流行はやりがある。 或時あるとき黃眼くわうがん流行はやり、或時あるとき綠眼りよくがん流行はやる。

 以上いじやう見聞けんぶん諸君しよくんには耳新みゝあたらしいことしんずる。 しかしながら、しマンチヨーゼン加減かげんなちやらつぽこを言つてゐなどうたがひおこひとがあるならば、拙生せつせいなんともはぬ、だゞ旅行りよかうして實地じつち踏査たふさをするがい。 百ぶんけんかずでかならずや拙生せつせい言葉ことば懸價かけねのないことわかるであらう。

法螺男爵旅土產


明治四十二年三月卅一日印刷    法螺男爵旅土產
明治四十二年四月五日發行      定價金貳拾五錢
            著作者  佐々木邦
  不 許       發行者  山縣文夫
                  東京府下北豐島郡巢鴨町
                  大字上駒込十九番地
  複 製       印刷者  藤本兼吉
                  東京市牛込區市ケ谷加賀町
                  一丁目十二番地
            印刷所  株式會社 秀英舎第一工場
                  東京市牛込區市ケ谷加賀町
                   一丁目十二番地
發行所 東京巢鴨郵便區上駒込山縣邸内    内外出版協会
    電話(長距離加入)下谷四百三十八番
              (振替貯金口座東京三百五十五番)

Transcriber's Notes(Page numbers are those of the original text)

誤植と思われる箇所は以下の通り訂正した。

原文 ねの(p.21)

訂正 つね

原文 とんじ(p.26)

訂正 とう

原文 小枝こえ新芽だめ(p.29)

訂正 小枝こえだ新芽しんめ

原文 惡戯をした(p. 45)

訂正 惡戯をした。

●文字・フォーマット・その他に関する補足

本文の前に「はしがき」が二頁にわたって書かれていたが、字がかすれて判読できず、割愛せざるをえなかった。

原文の爵の字は「嚼」から「口」をのぞいたもの。

また節の字は「卽」に竹冠。

p. 43 「拙生せつせいは或時地中海で……」の段落は一字字下げした。