The Project Gutenberg eBook of 苦悶の欄
Title: 苦悶の欄
Author: Earl Derr Biggers
Translator: Kiyotoshi Hayashi
Release date: March 28, 2012 [eBook #39287]
Most recently updated: March 3, 2021
Language: Japanese
Credits: Produced by Kiyotoshi Hayashi
Title: 苦悶の欄(Kumon no ran)
Author: Earl Derr Biggers
Translator: 林清俊(Kiyotoshi Hayashi)
Character set encoding: UTF-8
苦悶の欄
アール・デア・ビガーズ
第一章
二年前の七月、ロンドンの猛暑はほとんど我慢の限界をこえていた。いまから思えば当時の焼けつく大都市は、拷問部屋へつうじる控えの間のごとき役割をはたしていたのかもしれない。つまり世界大戦という地獄のおとずれにむけて不充分ながら下準備をととのえていたわけである。セシル・ホテルのそばにたつ、ドラッグストアのソーダ水売り場には大ぜいのアメリカ人観光客がたむろし、母国で売られているのとおなじソーダやアイスクリームにほっと息をついていた。ピカデリーの喫茶店のあけはなたれた窓からは、イギリス人が涼をもとめて何クォートもの熱いお茶を飲んでいる姿が垣間見られたかもしれない。これは彼らがかたく信じるパラドキシカルな消夏法なのである。
一九一四年、あの忘れもしない年の七月二十四日、金曜日朝九時頃、ジェフリー・ウエストはアデルフィ・テラスのアパートを出て、朝食を食べにカールトン・ホテルヘむかった。彼は、その堂々たるホテルの朝食室がロンドンでもっともすずしく、さらになんの奇跡か、季節はずれというのにまだイチゴが食べられることを見出したのだ。質実なイギリスの汗を浮かべる質実なイギリス人の顔にとりかこまれて、混雑するストランド街を歩いているとき、彼はニューヨークのワシントンスクエアにある自分の部屋をしきりに恋しく思った。というのもウエストはジェフリーというイギリス風の名前にもかかわらず、生まれ故郷のカンサスとおなじくらい生粋のアメリカ産で、そのときはさしせまった用事のためにイギリスに滞在していただけなのだ。はるかなるがゆえに妖しくもばら色にかがやく祖国から、遠くはなれたイギリスに。
カールトン・ホテルの新聞売り場でウエストは朝刊を二つ買った。タイムズは勉強用、デーリー・メールは娯楽用である。それからレストランへ入った。ウエストよりもあざやかな金髪の、背の高い、きりりとしたプロイセン人ウエイターが彼を見ると、機械仕掛けみたいなドイツ的笑みを浮かべて一つうなずき、このアメリカ人がまずほしがることを知っているイチゴの皿を取りにいった。ウエストはいつものテーブルにつくとデーリー・メールを開き、お気に入りの欄を探した。そこに載っている最初の記事を読むと彼はうれしそうににっこりと笑った。
「わたしをいとしい人と申した方は不誠実な方。手紙もくださらないなんて」
すこしでもイギリスの新聞につうじた人ならウエストがどんな内容に興味をひかれたか、たちどころに理解するだろう。ロンドンに滞在した三週間のあいだ、彼は日ごとデーリー・メールに載る私事広告を、胸をときめかせながら追いつづけたのだ。この一連の個人的メッセージは俗に「苦悶の欄」という名で知られ、長きにわたってイギリスの新聞の名物とされてきた。シャーロック・ホームズが活躍したころはタイムズ紙上でこれが大人気となり、多くの犯罪者がそこになにやら心をそそる奇怪なメッセージを載せては捕まえられた。その後、テレグラフ紙がこの投稿欄をもうけたが、半ペニーで買える大衆紙の登場とともに、庶民はこぞってデーリー・メールに鞍がえした。
苦悶の欄には悲劇と喜劇が混在している。あやまちを犯した者には許すから帰れという勧告が、望まれぬ求婚者には「父は令状を用意したわ。逃げて、あなた!」という警告が出される。その熱烈さにアベラールとエロイーズも赤面するような愛も、一語十セントであさらさまに披露され、町のみんなの微笑を誘うのである。茶色のダービー・シューズをはいていた紳士から、シェパーズ・ブッシュにて電車を降りた金髪の家庭教師に、情熱をこめて申し上げます、あなたに心を奪われました。お話しする機会を与えてもらえませんか? お答えは本欄まで。三週間のあいだ、ウエストはこの手のものを夢中になって読みつづけた。なによりもよかったのは、これらの伝言がどれもこれもあけっぴろげで無邪気なことだった。最悪の場合、それはたんに世間のならわしをかいくぐろうとする努力でしかなかったが、こういう開放的なところはイギリス人にはあまりにもまれにしか見られぬ傾向で、もっともっと奨励されてしかるべきではないかと彼は感じた。おまけにウエストは謎とロマンスに目がなかった。そしてこの魅惑的な双子はいつもこの投稿欄の上をウロウロしていたのである。
そういうわけで、イチゴを待っているあいだ、彼は「いとしい人」と呼んでくれた男の誠実さを疑うにいたった若い女性の、文法を無視した激しい憤りににっこりしていたのである。彼はその日の朝の二つ目の記事にうつった。心を完全に征服されし者より。
「わが愛しき人は眠り給う。豊かな漆黒の髪のご婦人。ビクトリア駅から乗車し、隅の席に。水曜日の夜。手には演目表。お尋ねに答えた紳士、お近づきを望みます。お返事はこの欄へ。……フランスの王」
ウエストは豊かな漆黒の髪の返事は要注意だと思った。次のメッセージは、いまやほとんど連日、この欄の目玉となっているアイの抒情詩だった。
「最愛の人よ。大好きなあなたへ優しい愛の祈りを送る。私の願いはただ、今もこれからも、ずっとあなたと一緒にいることだけ。私の目にはあなたほど魅力的な人はいない。あなたの名前は音楽だ。命よりもあなたは大切。私の美しい人、私の誇り、喜び、すべてである恋人よ! 誰を見ても恋敵に見える。あなたのかわいい手を私と思って口づけをしてくれ。あなただけを愛している。永遠にあなたの……アイ」
アイは気前がいいなとウエストは思った。一語十セントなのに。それはさらに先のほうに載っているけちな愛人のメッセージとはきわだった対照をなしていた。
「心から愛してる。会いたい。切ない。恋しい」
しかしこのきわめて個人的な伝言は、愛にまつわるものばかりではない。そこには謎もあった。とりわけ次の水生動物たちの言葉には。
「ふてぶてしい人魚よ。俺のものではない。鰐がおまえに噛みつくぞ。楽しみだ。……最初の魚」
そしてなにやら血なまぐさい警告。
「デュ・ボックス。第一ラウンドで歯をへし折ってやる。終局。忘れられない経験になるぜ」
この時、ウエストのイチゴが届いた。さすがに苦悶の欄も彼の興味をひきとめることはできなかった。赤いイチゴを食べおわると彼はふたたび読みはじめた。
「ウオータールー。水曜日十一時五十三分の汽車。タクシーで去りぎわに手を振ったお嬢さん、灰色のコートの男性に興味ある? ……まじめな男」
もうすこし品のある申し込みもその先に出ていた。
「グレート・セントラル。九日月曜日の朝グレート・セントラル・ホテルのエレベーター内にいらしたボンネットのご婦人、ご紹介を得る機会を切に所望致します」
その日の苦悶の欄のお楽しみはそれでおしまいだった。ウエストはまじめな市民にふさわしくタイムズ紙を取り上げ、朝のニュースに目を通した。ダリッジ・カレッジの新学長任命に多くの紙面がさかれていた。あの魅惑的なガブリエル・レイが当事者となった離婚騷動もおなじように注意を引いた。そして重要ではない紙面の片隅に、いかにも重要ではないという感じで、オーストリアがセルビアに対して最後通牒を送ったという記事が押しこまれていた。ウエストはこのつまらないニュースを途中まで読みかけたのだが、突然一大警世紙もその記事もどうでもよいインクの染みと化した。
一人の女性がカールトン・ホテルの朝食室の入り口に立っていた。
そう、彼はウィーン発の特電記事にじっくり思いをめぐらせるべきだった。しかしなんとすばらしい女性だろう! 髪はにぶい金色で、目はすみれ色、などといっても説明にはならない。おなじような恵みを受けた女はいくらでもいる。それは彼女の物腰だった。すみれ色の目で大ぜいのボーイ長ときらびやかな支配人たちを見る、その優雅な態度。そしてここカールトンであれ、運命がみちびくほかのどんな場所であれ、変わることのないくつろいだ様子。疑いもなく彼女はこの国の人ではなく、アメリカ合衆国の人間だった。
彼女はつかつかとレストランの中を歩いてきた。そして彼女の背景の一部として、政治家がよく着る黒服をまとった中年紳士も視野に入ってきた。彼もまたまぎれもなくアメリカ人というレッテルをしょっていた。彼女はますますウエストに近づいて来る。見るとその手にはデーリー・メールがにぎられていた。
ウエストについているウエイターは、自分が椅子をひいて待っているその席以外は、部屋の中に座るにあたいするテーブルはないということを、それとなく示す天才的な技の持ち主だった。こうして彼は女性とその連れをウエストの席から五フィートとはなれていない場所に誘いこんだ。そして注文控えをさっと取り出し、アメリカの劇に出てくる新聞記者のように立ったまま鉛筆をかまえた。
「イチゴがおいしゅうございますよ」と彼は愛想よく言った。
男がどうする? といった目で女性を見た。
「私はけっこうよ、お父さん」と彼女。「イチゴは大きらい。グレープフルーツをくださいな」
急いでそばを通りすぎるウエイターをウエストが呼びとめた。彼は大きな声を出し挑戦的な口調で言った。
「イチゴをもう一皿くれたまえ。今日はいつにもましてうまい」
一瞬、まるで風景でも見るかのように、あのすみれ色の目が彼の目に何気ない無感情な視線を送った。それからその目の持ち主は、ゆっくりと、手にしたデーリー・メールをひろげた。
「どんなニュースが出てるかね?」グラスの水を一口グイと飲みながら政治家がたずねた。
「知らないわ」と女性は顔をあげずに答えた。「ニュースより面白いものを見つけたの。知ってる? イギリスの新聞にはおかしな投稿欄があるのよ。苦悶の欄っていうの。その伝言がすごいの」彼女はテーブルに身を乗り出して、「これ、聞いて。『最愛の人よ。大好きなあなたへ優しい愛の祈りを送る。私の願いはただ、今もこれからも、ずっとあなたと一緒にいることだけ。私の目にはあなたほど魅力的な人はいない』」
男は落ちつかなげにあたりを見まわした。「やめなさい」彼は頼むように言った。「みっともないじゃないか」
「みっともないですって!」女性が声をあげた。「あら、わたしはとってもすてきだと思う。気持ちいいくらい開放的で堂々としてるわ。『あなたの名前は音楽だ。命よりもあなたは大切……』」
「今日はなにを見るのかね」と父親が急いで口をはさんだ。
「シティに行ってテンプル法学院を見るの。サッカレーが住んでいたところよ。それからオリヴァー・ゴールドスミスが……」
「よしよし、テンプル法学院と」
「それからロンドン塔ね。とってもロマンチックなイメージがいっぱい詰まってる。とくにかわいそうな王子たちが殺された血の塔。わくわくしない?」
「おまえがそう言うならな」
「お父さんたら! テキサスに帰ってもお父さんが王様とかそんなものに興味を示したなんて言わないわ。約束する。今ちょっと興味を示してくれたらね。さもないと国王ジョージ五世が横を通るとき帽子を取ったって、ひどい噂をばらまいちゃうわよ」
政治家は笑った。関係のないウエストも思わず一緒ににんまりした。
ウエイターがグレープフルーツとウエストの注文であるイチゴを持って戻ってきた。女性はウエストにはもう一瞥もくれず、新聞を置いて朝ご飯を食べはじめた。しかしウエストは勇気のかぎりをつくしてちらちらと彼女のほうをのぞき見た。愛国的な誇りを感じながら彼はこう思った。「ヨーロッパに来て六カ月経つが、そこで目にしたいちばん美しいものが祖国から来た人だとは!」
二十分後、彼がしぶしぶ席を立ったとき、二人の同国人は依然テーブルでその日の予定を話し合っていた。そういう場合の常として、女が段取りを決め、男が同意した。
彼女のほうを最後に一目見て、ウエストはヘイマーケット街の熱せられた舗道の上に出た。
彼はゆっくりと自分の部屋へ歩いて帰った。仕事が彼を待っていた。しかし彼は仕事に取りかかるかわりに、書斎のバルコニーに座り、そのアパートを選んだ最大の理由である中庭をみつめたのだった。この都会のど真ん中にささやかな田舎が運びこまれていた。きれいに刈りこまれ、手入れの行き届いた緑の田舎。それはイギリスでもっとも彼に満ち足りた気分を与えるものである。ツタが壁を高くよじ登り、花盛りの花壇のあいだを小径がはしっている。そして窓のむかい側にはめったに開けられることのない、はなはだロマンチックな門。座って下を見ていると、真下にあのカールトン・ホテルの女性が見えるような気がした。彼女は丸太のベンチに座ったかと思えば、彼女の美しさに嫉妬する花の上にかがみこみ、次の瞬間には灼熱のせわしない都会にむかってその扉を開く、門のところに立っているのだった。
彼女が決して入ることはないその庭に彼女の姿を見ながら、もう二度と会うことはないだろうと惨めに思ったとき、その考えが浮かんだのだった。
はじめは馬鹿くさい、とんでもないアイデアだと思って頭を振った。上品だがあまりにも濫用された言葉を使えば、彼女は「レディ」であり、彼はすくなくとも建前としては「ジェントルマン」なのである。彼らのような人間はそんな下品なことはしない。こんな誘惑に屈したら、彼女は驚き、怒り、どこかで、いつの日か、ふたたび出会うことがあっても、その千載一遇の好機を生かすことはできないだろう。
でも、しかし、彼女も苦悶の欄をおもしろがり、しかも「とってもすてき」だと思っている。彼女の目にはロマンスが大好きであることを示す輝きがあった。彼女は人間的で、楽しいことが好きで、なにより心に青春の喜びを持っている。
馬鹿げている! ウエストは部屋の中に入り、うろうろ歩き回った。そんなことは非常識だ。しかしそれでも……と彼はにやりとしながら考えた……このアイデアには愉快な可能性がいっぱいあるぞ。それを永遠に棄ててしまって、このくだらない仕事に取りかからなければならないなんて、あんまりじゃないか! 永遠に棄ててしまう? ううむ……
次の日の土曜日の朝、ウエストはカールトン・ホテルで朝食を取らなかった。が、例の女性はそこへ食事にやってきた。彼女と父親が席につくと、父親は「いつものデーリー・メールだな、持っているのは」と言った。
「もちろんよ!」と彼女は答えた。「これなしでは生きていけないないわ。グレープフルーツをお願い」
彼女は読みはじめた。まもなくすると頬が紅く染まり、彼女は新聞を置いた。
「どうかしたかね」とテキサスの政治家が聞いた。
「今日は」と彼女は厳しい口調で答えた。「大英博物館に行くのよ。延期するのはもうたくさん」
父親はため息をついた。ありがたいことに彼はデーリー・メールを見せろとは言わなかった。もしもそうしていたら、私事広告欄の上から四分の一ほどいったあたりで激怒していただろう。あるいはもしかすると困惑するだけだったかもしれないが。
「カールトン・ホテルのレストラン。金曜日の朝九時。失礼ながら、イチゴを二皿食べた男性から、イチゴよりグレープフルーツを好むお嬢さまへ。私たち、共通の友人がいるのでは? それを突き止めるまで夜も眠れません。またお会いしてこの投稿欄を読みながら楽しくお話ししたいと思います」
イチゴ好きの男性が怖気づいてあの朝カールトン・ホテルにいなかったのは幸いだった! 彼はグレープフルーツをみつめる女性の美しい顔に厳しい断固とした表情が浮かぶのを見て落胆しただろうから。あまりの落胆に、ただちにレストランを出たかもしれない。かくしてやがて女性の顔にいたずらそうな微笑が浮かぶのを、そして彼女がふたたび新聞を取り上げ、その笑みを浮かべたまま最後まで投稿欄を読むのを、見ることはなかっただろう。
第二章
次の日は日曜日で、デーリー・メールは休刊である。その日はのろのろと足を引きずるように過ぎた。月曜日、ジェフリー・ウエストはとてつもなく早起きをし、通りに出て、お気に入りの新聞を捜した。それを見つけると苦悶の欄……それだけを見た。火曜日も希望をすてずにまた早起きした。しかしそこで希望はついえた。カールトン・ホテルの女性は快く返事をくれなかったのだ。
失敗というわけか、と彼は思った。すべてを賭して大ばくちに出たが、見事にしくじった。彼女が彼のことを考えるとしても、せいぜい取るに足らぬ道化者、タブロイド紙の回し者と決めつけるくらいのものだ。彼は十分に彼女の侮蔑にあたいした。
水曜日は遅くまで寝ていた。デーリー・メールを急いでのぞこうとはしなかった。前日の失望があまりにも大きかったのだ。ひげを剃りはじめてからようやくアパートの管理人ウオルタースを呼びだし、朝刊を調達してきてもらった。
ウオルタースは高価な宝物を抱えて帰ってきた。というのはその日の苦悶の欄を、ウエストは白いシャボンを顔につけたまま、喜びにあふれて読んだからである。
「イチゴ男さんへ。お返事を決心したのは、ただグレープフルーツの女性が優しい心の持ち主で謎とロマンスが大好きだからです。イチゴ狂いさんには七日のあいだ、毎日一通ずつ手紙を書くことを許します。あなたが面白くて、お友達にふさわしい人であることを証明してちょうだい。その後のことは……様子を見てから。宛先はカールトン・ホテル、セイディ・ヘイト気付M.A.L.まで」
ウエストは終日足が地につかなかった。が、夕闇の訪れとともに、手紙の問題が彼を悩ませはじめた。自分の未来の幸せがまるごとそれにかかっていると彼は感じた。夕食から帰ってくると、すばらしい中庭を望む、窓ぎわの机にむかった。日中はいまだ焼けるように暑かったが、夜になるとそよ風がロンドンの熱した頬をあおぐように吹いてきた。風はやさしくカーテンをゆすり、机の上の紙をかさかさと鳴らした。
彼はじっくりと考えた。すぐさま自分が地位のある立派な人間であり、イヤになるくらい著名な人たちと懇意にしていることを打ち明けるべきだろうか。とんでもない! そんなことをしたら、泡がはじけるように、たちまち謎とロマンスが永遠に消えてしまう。グレープフルーツの女性は一切の興味を失い、二度と彼の言うことに耳を貸さないだろう。彼はさらさらゆれるカーテンに厳粛な口調で語りかけた。
「だめだ。謎とロマンスがぜひとも必要なんだ。しかし、どこに……どこにそんなものが?」
上の階から軍靴の硬いどしんどしんという音が聞こえてきた。近所付き合いをしている英国インド陸軍第十二騎馬隊のスティーブン・フレイザー=フリーア大尉である。海のむこうの植民地から賜暇帰国中であった。まさにその頭上の部屋からのちほどロマンスと謎が豊かにあふれ出すことになろうとは、その時のジェフリー・ウエストには思いも寄らなかった。なにを話そうと迷っているうちに、ふと霊感が訪れ、彼はカールトン・ホテルの女性に宛てた、七通の手紙のうちの最初の一通を書きあげた。真夜中に投函した手紙は次のようなものだった。
親愛なるグレープフルーツのお嬢さま。
あなたはとても優しい方です。また賢くもいらっしゃる。賢いと言うのは、私のぎこちないささやかな個人広告、あそこに書かれていたことをすべて読み取ってくださったからです。あなたはたちどころにその意味するところを理解なさったでしょう。つまり内気な男がおずおずと、ためらいながら、そばを通り過ぎるロマンスの裾をつかもうとしているのだと。どうぞ信じてください。あのメッセージを書いたとき、保守主義という老人が私につきまとっていました。彼ははげしく抵抗しました。彼はもがき苦しみ、悲鳴をあげ、抗議の声をあげながら、郵便ポストまで私を追いかけてきました。しかし私は奴を鞭打ちました。どうだ! とばかりに。私は彼をやっつけたのです。
青春は一度きりだ、と私は彼に言いました。それを過ぎてからロマンスに合図を送ってもなにになる? すくなくともこの女性なら理解してくれる、私はそう言いました。彼はそれを聞いてあざ笑いました。おろかな白髪頭を振りました。彼のせいで私が不安を感じたことは認めます。しかし今、あなたのおかげで、あなたに対する私の信念が正しかったことが証明されました。感謝の言葉を百万回申し上げます。
三週間というもの、アメリカへの思いを募らせながら、私はこの巨大で、ぶざまで、冷淡な都市にいました。三週間というもの、苦悶の欄だけが私の気晴らしでした。そこにカールトン・ホテルのレストランのドアを通って、あなたがあらわれたのです。
自分のことを書かなければなりませんね。分かっています。それでは私の心の中にあるもの……私が持っているあなたの写真のこと……はお話ししないことにします。そんなものはあなたにとってなんの意味もないことでしょうから。きっと幾人ものテキサスの伊達男があなたにおなじことを言ったでしょう、月が頭の上にかがやく晩に、そよ風がやわらかくささやくなか、あの木の枝を……あの木……えっと、あの木の名前は……
ああ、面白くないなあ。私は知らないんですよ! テキサスに行ったことがありませんからね。これはすぐ直さなければいけない私の悪い癖です。一日中、私は百科辞典でテキサスを調べようと思っていたのです。しかし一日中、私は雲の上にいました。そして雲の上に辞典はないんです。
今、私は地上に降りて、静かな自分の書斎にいます。目の前にはペンとインクと紙があります。私は自分がお付き合いするにふさわしい人物であることを証明しなければなりません。
部屋を見れば、そこに住む人のいろいろなことがわかる、と言いますね。ところが、なんということでしょう、アデルフィ・テラスの……何番地かは申しませんが……この落ち着いた部屋は家具つきの転貸用物件なのです。ですから今、私がいるところをご覧になるとすれば、アンソニー・バーソロミューという人が残して行った所持品で私を判断することになるでしょう。それらの上には埃がたくさん積もっています。そんなものでアンソニーも私も判断なさらないでください。むしろ白髪まじりの奥さんと地下室にすんでいる管理人のウオルタースを判断すべきでしょう。ウオルタースはかつては庭師でした。そして私の部屋のバルコニーが見下ろす中庭に、彼の人生のすべてが詰めこまれているのです。彼がそこで時間を過ごしているあいだに、上の方では隅に埃がたまるというわけです。
こんな様子にはがっかりですか? ではあなたは中庭をご覧になるべきです! そうしたらウオルタースを非難なさったりはしないでしょう。この中庭は我々の身近に残された天国の見本なのですから。生垣とおなじくらいイギリス的で、こぎれいで、美しいのです。ロンドンはそのむこうのどこかにある喧騒です。私たちの中庭と大都市の間には、永遠に閉ざされた魔法の門があります。私がこの部屋を借りることに決めたのは中庭のせいなのです。
あなたは謎をお好みですから、私がここに来るにいたった一連の奇妙な事情についてお話ししましょう。
その発端からお話しするには、まずインターラーケンにまで戻らなければなりません。あちらにいらっしゃったことがおありですか。あのユングフラウの高峰を後ろにひかえ、きらきら輝く二つの湖の間に美しく横たわる、静かな小さな町です。とある幸運なホテルの食堂からは、夕食のとき、雪をいただくユングフラウに、灰紫色の残光が燦めくのを見ることができます。それを見れば、あなたもイチゴのことを「大きらい」などとは言わないでしょう。いや、他のどんな言葉も失ってしまうでしょう。
一ト月前、私はインターラーケンにいました。ある晩、夕食を終えて、大通りをぶらぶら散歩していました。ホテルと店が一つ残らず通りに整列して、すばらしい山を前に気をつけの姿勢で立っていました。私はある店の店先にステッキがまとめて置いてあるのを見つけました。登山用に一本必要でしたので、ひとつ見ておこうと立ち止まりました。すると品定めをはじめたとたん、一人の若いイギリス人が店にあがってきて、やはりステッキを吟味しはじめたのです。
たくさんある中から一つを選び、店主を探そうと後ろを振りむいたとき、そのイギリス人が話しかけてきました。細身で、とても若いにもかかわらず気品があり、お風呂で身体をぴかぴかにみがいているような様子をしていました。私はそれこそイギリス人がエジプトやインドのような植民地で威勢を張ることを可能にしている大きな要因だと確信しています。エジプト人やインド人はそれほどきちんとお風呂に入りませんからね。
「やあ、失礼だが、君」と彼は言いました。「その杖はやめたほうがいい。気を悪くしないでくれたまえ。それじゃ山登りには頼りないな。僕が薦めるなら……」
私は驚いたなんてものではありません。イギリス人を多少ともご存知なら、彼らには、ぎりぎり差し迫った状況でも、他人に話しかける習慣がないことを知っていらっしゃるでしょう。ところがその傲慢な種族の中には、なんと一人だけ私のステッキの選択にいちゃもんをつける人間がいたのです。私は結局、彼が選んだステッキを買うことになりました。そして彼は私のホテルの方向へ一緒に歩き出しました。そのあいだ、彼のお喋りたるや、全然イギリス人らしくないのです。
私たちは遊園地に立ち寄り、音楽に耳を傾け、酒を一杯やり、子馬の背中に何フランか金を投げてやりました。彼はホテルの玄関先の回廊までついて来てくれました。彼が立ち去る時、私を旧知の間柄のように扱うのには驚きました。彼は次の日の朝、私を訪ねてくると言いました。
アーチボルド・エンライトというのが彼が教えてくれた名前なのですが、彼はきっと落ちぶれた山師で、のっぴきならない事情から、なんとか金の工面をしなければならず、それでイギリス的な排他的態度を捨てることにしたのだろうと私は決めこみました。そして次の日、金の無心をされるだろうと覚悟していたのです。
しかし私の予想ははずれました。エンライトは金はたっぷりあるようでした。最初の晩、私は近々ロンドンに行く予定になっていると言ったのですが、話の途中、彼はしばしばそのことを話題にしました。インターラーケンを離れる時が近づくと、彼は私にむかって、イギリスにいる彼の友人に会うようにほのめかしはじめました。これまた聞いたことがない、前例のないことです。
彼は私がいとまごいを告げたとき、彼の従兄弟、英国インド陸軍第十二騎兵隊スティーブン・フレイザー=フリーア大尉への紹介状を私に手渡したのでした。大尉なら喜んでロンドン滞在中に便宜を図ってくれるよ、ちょうど今、賜暇休暇の最中だろう、そうじゃないとしても君がそこに着く頃には休暇に入っているさ、と言うのです。
「スティーブンはいい奴だ」とエンライトは言いました。「喜んでいろいろなことを教えてくれる。君、よろしく言っといてくれたまえ」
もちろん私は手紙を受け取りました。しかしこの一件には大いに頭を悩ませました。いったいアーチーはなぜ、こうも突然、私に強い親近感を抱いたのか。また従兄弟はインドでの二年間の滞在の後、帰国して、さだめし多忙を極めているだろうに、なぜ私に会わせようとするのか。アーチーに執拗に口説かれ、私は紹介状を見せるという約束をしたのですが、それにもかかわらず、私は見せないことにしたのです。それまで多くのイギリス紳士に会いましたが、アーチーは例外としても、彼らはたかが一通の紹介状くらいで放浪の旅をするアメリカ人を温かく迎えてくれるような連中ではないと感じていたのです。
私はゆっくり旅をつづけながらロンドンに着きました。ここで私は、船で帰国の途につこうとしている友人に出会いました。彼は紹介状を持っていった時の悲しい経験をいくつか話してくれました。紹介状を見せた相手の「おい、こんなもので面倒をかけさせるなよ」という冷たい、うさん臭い目つきとか。みんな思いやりのある人なんだが、よそ者は毛ぎらいする、と彼は言いました。イギリス人の変ることのない習性ですね。もちろんアーチーはこのかぎりではないのですが。
というわけで、フレイザー=フリーア大尉への紹介状は忘れることにしました。ここロンドンには仕事上の知人と数人のイギリス人の友達がいます。彼らはいつもと変わらぬ、親切で魅力ある人々でした。でも、できるだけ多くの人に会うことは、私にとっても有益です。ですから一週間くらい転々と移動を繰り返したある日の午後、私は大尉に会いに行くことにしたのです。私は自分にこう言い聞かせました。ひょっとするとインドの巨大なかまどの中でちょっとは柔らかくなったんじゃないだろうか。当てがはずれても別に困ることはないんだし、と。
アデルフィ・テラスのこのアパートに来たのは、そのときが最初でした。アーチーがくれた住所というのがここだったのです。ウオルタースが中に入れてくれ、私は彼からフレイザー=フリーア大尉がまだインドから帰っていないことを教えられました。部屋は準備されていました。こちらでの習慣のようですが、大尉は不在の間も部屋をそのまま取っていたのです。そして、もうすぐこちらに来ることになっていました。たぶん妻が日にちを覚えているでしょう、とウオルタースが言いました。彼は一階の玄関の広間に私を置いて、奥さんのところへ訊きに行きました。
待っているあいだ、私はぶらぶらと広間の奥へ入って行きました。そして夏を室内へ招き入れるため開け放たれた窓から、私は初めてあの中庭を、ロンドンで私がとても気に入っているあの中庭を見たのです。ツタの這うレンガの古壁、花咲き匂う花壇をめぐるきれいな小径、丸木の椅子、魔法の門。そのすぐ外側に世界最大の都市がその貧困と富、悲しみと喜び、騒音と喧騒とともに横たわっているとは、とても信じられませんでした。こここそはジェーン・オースチンが貴婦人や洗練された紳士を住まわせた庭です。こここそ夢を見、崇め、慈しむべき庭なのです。
ウオルタースが戻ってきて、奥さんも大尉が戻る日をはっきりとは知らないと言ったとき、私は中庭を口をきわめてほめました。すぐに私たちは友達になりました。私はホテルから離れた静かな下宿を探していたので、二階の、ちょうど大尉の部屋の真下に、転貸用のスイートルームがあることを知ったときは、大喜びしました。
ウオルタースから不動産業者の住所を聞き、社長の娘に結婚を申し込んだとしても、これほどではあるまいと思える厳しい審査を受けた後、私はここに住むことを許可されました。庭は私のものになったのです!
大尉ですか? ここに来て三日後、はじめて上の方から軍靴の音が聞こえてきました。するとまた勇気がくじけてきたのです。アーチーの紹介状は机にしまっておいて、隣人とは、上のほうで彼が歩く音を聞くだけの付き合いにしたい。彼とおなじアパートに移ってきたのは、ひょっとすると礼を失した行為ではなかったかと感じました。しかしウオルタースには大尉の知り合いであると言ってありましたので、彼はすぐさま「お友達」が無事お帰りですよ、と教えに来たのでした。
そういうわけで一週間前のある晩、度胸を決めて大尉の部屋に行ったのです。ノックすると、入るように言われ、私は書斎で彼と対面しました。背の高い金髪の美男子で、口ひげを生やしていました。まさしく、お嬢さん、女学生の頃のあなたが夢見るような人物でした。態度のほうは残念ながら好意的とは言えなかったのですが。
「大尉」と私は話しはじめました。「無理やり押しかけてきて申し訳ありません」もちろんそんなことを言うつもりはなかったのですが、私は落ち着きを失っていました。「しかし私は、たまたまあなたの隣人でして、それにここにあなたの従兄弟でいらっしゃるアーチボルド・エンライト氏の紹介状も持っています。インターラーケンでお会いして、とても仲のよい友達になったのです」
「ほう、ほんとうかね」と大尉。
彼は軍法会議の証拠品を受け取るように、紹介状に手を伸ばしました。私は来なければよかったと思いながら、それを手渡しました。彼は手紙を最後まで読みました。紹介状にしては、長い手紙でした。彼の机のそばに立って待っているあいだ……というのは彼は座れとは言わなかったからなのですが……私は部屋の中を見まわしました。私の書斎と大差ありませんが、ただ私の部屋よりも少し埃っぽいなと思いました。三階にあるので庭からはさらに離れています。それ故ウオルタースはそこまでめったにやって来ないのです。
大尉はこちらを振り返ると、また手紙を読みはじめました。これは決定的に私を当惑させました。私は下をむきました。すると偶然、彼の机の上に、インドから持ちかえったと思われる奇妙なナイフを見つけたのです。物騒なほど鋭利な刃は鋼鉄製で、柄は金、なにか異教的な模様が彫られていました。
そのとき大尉はアーチーの手紙から顔をあげ、冷たい視線をまともに私の上にそそぎました。
「君」と大尉は言いました。「私の知るかぎり、アーチボルド・エンライトなどという従兄弟はいないんだがね」
ああ、涙が出るほどすてきな成行きではありませんか! 相手のお母さんから紹介状を持ってきたというのも十分間の悪い話ですが、私はこのイギリス人の部屋で、存在しない従兄弟からもらった、あたたかい推薦状とやらを、目の前でずうずうしくもひけらかしてみせたのです!
「それは失礼いたしました」と私は言いました。彼とおなじように横柄にかまえようとしたのですが、十年早いというところでした。「しかし決してふざけて手紙をお持ちしたのではないのです」
「もちろんそうでしょうな」と大尉は答えました。
「どうやらペテン師がなにかを企んでそんなものを私によこしたみたいですね」私はつづけました。「なにを企んでいたのかは皆目見当もつきませんが」
「まったくもってお気の毒です」と彼は言いました。しかしそれをロンドン的な抑揚をつけて言ったのです。その抑揚がはっきりほのめかしていたのは「ちっともそうは思ってないね」ということでした。
痛々しい沈黙。大尉は手紙を返すべきだと私は思いましたが、そんなそぶりは見えません。それに、もちろん、わたしも返してくれとは言いませんでした。
「あの、では、失礼します」と言って私は急いで出て行こうとしました。
「おやすみなさい」と彼は答え、私はアーチーのいまいましい手紙を手にして立っている大尉のもとを去ったのです。
私がアデルフィ・テラスに来たのは、以上のようなわけがあったのです。そこに謎が含まれていることは認めて下さいますね。あの気まずい訪問の後、一度か二度、階段で大尉とすれ違いましたが、廊下が非常に暗いのはもっけの幸いでした。上からは彼のたてる物音がしばしば聞こえてきます。実はこれを書いている最中も聞こえているのですよ。
アーチーとは誰か? なにをもくろんでいたのか?
とにかく、私は庭を手に入れました。その点はお喋りのアーチーのおかげです。今はほとんど真夜中です。ロンドンのざわめきは次第に静まり、今はぶつぶつという不平のつぶやきになりました。そしてこの焼けつく都市のかなたから、そよ風が吹いてきました。そのささやきが緑の草の上、壁を這うツタのあいだ、カーテンの柔らかく薄暗いひだの中から聞こえてきます。どんなことをささやいているのでしょうか?
おそらく、この最初の手紙とともにあなたに届ける夢を。それは私でさえ、まだささやく勇気がない夢です。
それでは、おやすみなさい。
イチゴ男
第三章
テキサスの政治家の娘は、興味津々の笑みを浮かべて、木曜日の朝、カールトン・ホテルの自室でその手紙を読んだ。イチゴ狂からの手紙が彼女の心をとらえ、ひきつけたことは確かだった。その日一日、無理やり父親をひっぱって美術館めぐりをしながら、彼女は次の日の朝をわくわくしながら熱心に待ち望んでいる自分に気がついた。
しかし翌朝、この奇妙な文通を取り次いでいる女中のセイディ・へイトは一通も手紙を持ってこなかった。テキサスの娘は少々がっかりした。昼になると彼女はお昼ご飯を食べにホテルに戻ろうと言い張った。父親が言うとおり、そのとき彼らはカールトン・ホテルからずいぶん離れたところにいたのだけれど。彼女の大移動は報われた。第二の手紙が待っていたのだ。読みながら彼女は息を呑んだ。
親愛なるカールトン・ホテルのお嬢さま。
私は午前三時にこの手紙を書いています。庭のむこうのロンドンは墓場のように静かです。こんな遅くに手紙に取り掛かるというのは、昨日ずっとあなたのことを考えていなかったということでも、昨夜の七時に机にむかって手紙を書こうとしなかったということでもないのです。信じてください。私を妨害できるとしたら、それはなにかとてつもなく驚くべき、ぞっとするような事件くらいなものです。
そして、そのとてつもなく驚くべき、ぞっとする事件が起きたのでした。
このニュースを強烈な恐ろしい一文で一気にあなたにぶつけてみたい。書こうと思えば書けるのですよ。でもそれはあとのためにとっておきましょう。ロンドンの霧のように深い謎につつまれた悲劇がアデルフィ・テラスのこの静かな、小さなアパートに降りかかりました。地下の部屋ではウオルタースの家族が打ちひしがれ、まんじりともせず、黙って座っています。部屋の外の暗い階段からは時折、不吉な使命を帯びた男たちの足音が聞こえてきます……
いや、やはりいちばんはじめから話さなければなりません。
昨日の晩はストランド街のシンプソンズで、早めの夕ご飯を食べました。あまりに早かったので、私のほかに客はほとんど誰もいませんでした。あなたへの手紙で頭がいっぱいでしたので、急いで食事を済ませ、部屋に帰りました。鍵を取り出そうとアパート前の通りに立ち、ポケットを探っていたとき、国会議事堂の大時計が七時を打ったことをはっきりと覚えています。大きな鐘の音が平和な大通りに、声高の、親しげな挨拶のように響き渡りました。
書斎にたどり着くと、わたしはさっそく机にむかって手紙を書きはじめました。頭の上ではフレイザー=フリーア大尉の動き回る音が聞こえました。夕食に出かけるための身支度でも整えているのでしょう。一階下の粗野なアメリカ人が六時というとんでもない時間に夕ご飯を食べたと知ったら、どんなにショックを受けるだろうかとニヤニヤしながら考えていたのですが、そのとき、突然、上の部屋から客らしい人物の荒々しく断固とした声が聞こえたのです。それにつづく大尉の答は落ち着いていて、もっと毅然としていました。この会話はしばらくつづき、ますます興奮したものになっていきました。なにを言っているのか、一語も聞き取れませんでしたが、私は口論がかわされているのじゃないかと不安な気持ちになりました。そしてあなたへの手紙を書くという、私にとって最も大切な仕事を、こんなふうに邪魔されることに不愉快を感じたことを覚えています。
五分ほど議論がつづいたあげく、今度は上から争うような、どすんどすんという重い音が聞こえてきました。私は大学時代、上の階の血気盛んな連中が若げの至りで取っ組み合いをする音を聞きましたが、それを思い出しました。しかしこれはもっと凄みと緊張感があって、わたしは胸騒ぎがしました。しかし私に関係したことではないのだからと考え直し、気持ちを手紙に集中しようとしたのです。
争いはこの古アパートを土台から揺るがすような、とてつもなく重いどさっという音とともに終わりました。私は座ったまま、なぜかとても憂鬱な気持ちで聞き耳を立てていました。なにも聞こえませんでした。外はたそがれが長くつづき、完全な闇にはなってはいません。廊下に出ると、倹約家のウオルタースはまだ明かりを灯していませんでした。誰かが階段を忍び足で降りてきました。しかしきしむ音でわかるのです。私は背後のドアの隙間から漏れる一条の光の中を、彼が通りすぎるのを待ちました。その時です、運命がそよ風となって窓から介入してきたのは。ドアはばたんとしまり、大男は暗闇の中、私の脇を一目散に駈け抜けて階段を下りました。彼が大男だと分かったのは、通路が狭く、彼が横を通るとき、私を押しのけなければならなかったからです。彼が声をひそめて毒づくのが聞こえました。
私は急いで廊下の突き当たりの、通りに面した窓から外を見ました。しかし正面玄関は開きません。誰も出てこなかったのです。一瞬わけがわかりませんでしたが、私はすぐ部屋に戻り、バルコニーへ飛び出しました。薄暗い男の影が裏庭を……私が何度も話したあの庭を……走って行くのが見えました。男は門を開けようともせず、よじ登って越え、路地に消えました。
私はちょっとのあいだ、考えこみました。確かになんだか変なことが起きた。しかしここで私がしゃしゃり出ていくのはどんなものだろう。紹介状を差し出したときのフレイザー=フリーア大尉の冷たい視線は忘れられません。彼があの陰気な書斎に、彫像のような愛想笑いを浮かべて、身じろぎもせず立っている姿が目に浮かびました。今、ノコノコ入って行っても、こころよく迎えてくれるだろうか。
結局、私は、どう思われようとかまうものかと、ウオルタースを探しに下へ行くことにしました。彼は奥さんと地下室で夕食を食べていました。私はなにが起きたかを話しました。彼は大尉に面会に来た人など通さなかったと言い、私の心配に対してイギリス流の冷ややかな態度を取ろうとするのでした。しかし私は彼を説きつけて大尉の部屋まで一緒に行ってもらったのです。
大尉の部屋のドアは開いていました。イギリスでは侵入者は厳しく処罰されることを思い出し、私はウオルタースを先に行かせました。古いシャンデリアのガスの火が弱々しく明滅する部屋の中に、彼は足を踏み入れました。
「大変ですよ、旦那様!」ウオルタースはこんな場面でもまだ召使いの言葉づかいを忘れないのです。
さて、とうとうあの一文を書くときです。英国インド陸軍フレイザー=フリーア大尉はその端正なイギリス的な顔に、ほとんどあざ笑うような笑みを浮かべて、床の上で死んでいたのです!
今、私は大尉が死んでいた部屋とそっくりの自分の部屋で、静かな夜明けを迎えているのですが、あの時の恐怖は今も強烈に残っています。彼はちょうど心臓の上から刺殺されたのでした。最初に私の頭に浮かんだのは、机の上にあった例の奇妙なインドのナイフでした。私は急いで振り返って探そうとしましたが、ナイフはなくなっていました。そして机を見たとき、この埃っぽい部屋の中には指紋が、たくさんの指紋があるに違いないことに気がついたのです。
部屋の中は、あの闘争の音のわりには、乱れていませんでした。一つ二つおかしなものが目にとまりました。机の上にはボンド・ストリートの花屋から送られて来た箱が置いてありました。ふたは開けられていて、中に白いシナギクがたくさん入っているのが見えました。箱の横にはエメラルドでできたコガネムシ形のネクタイピンがありました。さらに大尉の死体からさほど離れていないところには、それが作られているドイツの都市の名をとった、ホンブルグ帽が転がっていました。
私はこんな場合は現場を乱さないことが大切だということを思い出し、ウオルタースのほうを振りむきました。彼の顔色は、今、私が字を書いている、この紙のようでした。膝が震えていました。
「ウオルタース。警察が来るまで、ここはそのままにしておくんだ。スコットランドヤードに連絡するからついておいで」
「わかりました、旦那様」とウオルタース。
私たちは一階の玄関の電話口へ行き、私がスコットランドヤードに電話をかけました。警部をすぐむかわせると言われ、私は部屋に戻って待機することにしました。
待っているときの私の気持ちはご想像いただけるでしょうね。この謎が解けるまでのあいだ、危険はないでしょうが、かなり厄介な面倒に巻きこまれるであろうことが予想されました。ウオルタースは私が最初、大尉の知り合いだといって、ここに来たことを覚えているでしょう。私の感じでは、彼は大尉がインドから帰ってくるや、私たちが親密な間柄じゃないことに気がついたに違いないのです。彼は私がフレイザー=フリーアとおなじところに下宿することを強く望んだと、必ず証言するでしょう。さらにアーチーからの紹介状の一件があります。あれは秘密にしておかなければならない、私はそう確信しました。最後に、大尉の死の前の喧嘩や、庭を通って逃げた男のことで、私の話を裏付けてくれる人は一人もいないのです。
えらいことになった、と私は思いました。どんなに愚かな警察官でも、私を疑惑の目で見ない者はいないでしょう!
約二十分後、三人の男がスコットランドヤードからやってきました。そのころには私は落ち着きを失ってひどく神経質になっていました。ウオルタースが彼らを中に入れるのが聞こえました。彼らが階段を上り、上の部屋を歩き回る音も。すぐウオルタースが私のドアをたたき、ブレイ警部が私と話したがっていると言いました。先に立って階段を上っているとき、私がウオルタースに対して感じていたのは、被告の殺人者が、証言一つで彼を死刑にできる証人に対して抱くに違いない感情でした。
ブレイは活動的な巨漢でした。髪は、多くのイギリス人がそうであるように金髪。動きの一つ一つがその敏腕を物語っていました。私は巻き添えを食っただけの男のように何気ない様子を装いながら……しかし惨めなほど失敗していたと危惧するのですが……二人の男の声が聞え、闘争があり、大きな男が廊下で私のそばをすり抜け、ついで門をよじ登ったことを話しました。相手はなにも言わず聞いていましたが、いちばん最後に、
「君は大尉と面識があるのかね?」と言いました。
「面識といえるほどのものではありません」と私。アーチーの手紙のことがしきりに頭に浮かんできて、私はおびえていました。「わたしたちは会ったばかりでした。彼の友達の紹介です。アーチボルド・エンライトという名前なんですが」
「エンライトはロンドンにいて君の証人になってくれるのかな」
「残念ですが、できません。インターラーケンで消息を聞いたのが最後ですから」
「そうか。このアパートの部屋を借りることになったいきさつは?」
「初めて大尉を訪問したとき、まだインドからお帰りじゃなかったんです。ちょうど下宿を探していましてね。それにここの庭がとても好きになったんです」
こんな言い方をすると、まるでたあいのない言い訳ですね。警部が小馬鹿にしたような色を浮かべて私を見ても驚きませんでした。でもあの目つきはひどすぎる。
ブレイは私を無視して部屋の中を歩きはじめました。
「白いシナギク、コガネムシのネクタイピン、ホンブルグ帽」と彼は奇妙な陳列物が並ぶ机の前に立ち止まって、一つ一つを列挙しました。
巡査が新聞を持って進み出てきました。
「なんだ、それは」ブレイが聞きました。
「デーリー・メールです、警部」と巡査。「七月二十七、二十八、二十九、そして三十日の分です」
ブレイは新聞を手に取り眺めていましたが、蔑むようにそれらを屑箱に放り込んでしまいました。そしてウオルタースにむき直りました。
「大尉の家族に連絡したかね?」
「すみません、旦那様」とウオルタースが言いました。「めんくらってしまったもんで。こんなことは、初めてなもんで。すぐひとっ走りして……」
「いや、かまわん」とブレイは鋭く答えました。「気にしなくていい。こっちでやるよ」
ドアをノックする音が聞こえました。ブレイが「入れ!」と言うと、華奢な感じの、しかし挙動は軍人らしい、ほっそりした青年が入ってきました。
「やあ、ウオルタース!」と彼はにこにこしながら言いました。「なにかあったのかい? 僕は……」
彼はフレイザー=フリーアが横たわっている長椅子を見ると突然立ち止まりました。次の瞬間、彼は死者の脇にいました。
「おい、スティーブン!」彼は悲痛な叫び声をあげました。
「君は誰だ?」と警部は詰問しましたが、私にはその態度がややぶしつけに思われました。
「大尉の弟さんでして」とウオルタースが口をはさみました。「英国フュージリア連隊ノーマン・フレイザー=フリーア中尉でして」
沈黙が訪れました。
「とんでもないことになってしまいましたよ、旦那様」とウオルタースは青年に話しかけはじめました。
私は若きフレイザー=フリーアくらい打ちのめされた人間を見たことがありません。彼を見ていると、長椅子の男との間には美しい兄弟愛があったに違いないと思われました。とうとう彼は兄から目をそらしました。ウオルタースはなにが起こったのかを説明しようとしました。
「失礼いたしました、皆さん」と中尉。「ひどくショックを受けましたので。もちろんこんなことは夢にも……僕は兄……兄とちょっと話をしに立ち寄っただけなんですが。それが今は……」
私たちはなにも言いませんでした。彼が真のイギリス人らしく、人前で取り乱したことを詫びるがままにしておきました。
「お気の毒です」視線をなおも部屋のあちこちにさまよわせながら、ブレイ警部はすぐそう言いました。「とりわけイギリスは間もなく、大尉のような方を大いに必要とするでしょうからな。ところで皆さん、私からお話ししておきたいことがあります。私はスコットランドヤード公安課の課長ですが、これは普通の殺人ではありません。今は言えない理由があって……付け加えれば大英帝国の利益のためにも……大尉の悲劇的な死は当分のあいだ、新聞から隠しておかねばなりません。もちろん死亡の状況については伏せるということです。死亡告知を出すだけにしてください、よろしいですか、自然死だと思わせるように」
「分かりました」と中尉は言いました。彼はその語るところ以上に事情に通じているのです。
「ありがたい」とブレイ警部。「ご家族への連絡は、あなたにお任せしましょう。ご遺体もお引取りください。他の方ですが、このことを外部に漏らすことは厳禁ですぞ」
ブレイ警部は立ったまま、おやっという様子で私を見ました。
「君はアメリカ人かね」と彼は言いました。私は彼がアメリカ人を好まないのだなと思いました。
「そうです」
「領事館に知り合いはいるかね?」
ありがたい、いるぞ! そこにワトソンという次官がいるのです。彼は大学の同期でした。私はブレイに彼のことを言いました。
「結構」と警部。「君は行ってもよろしい。しかし自分がこの事件の重要な証人であることを理解してくれたまえ。もしロンドンを離れようとすれば、刑務所に監禁だ」
こうして私は、好きでもない謎にひどくからめとられて、部屋に戻ってきたのです。何度も何度も謎に思いをめぐらしながら、今までしばらく書斎に座っていました。階段からたくさんの足音が、玄関からはたくさんの声が聞こえてきます。
ここで夜明けを待っているうちに、冷たい端正な顔の大尉がひどく気の毒に思えてきました。やはり彼も人の子だったのだ、もう二度と聞けない、頭上を歩く彼の足音が、そう私に語りかけました。
この事件にはどういう意味があるのでしょうか。廊下の男、大声で言い争っていたあの男、奇妙なインドのナイフで的確な一撃を与えた男は誰なのか。
そしてとりわけ白いシナギクはなにを意味するのか。またコガネムシのネクタイピンは? あの妙ちきりんなホンブルグ帽は?
カールトン・ホテルのお嬢さん、あなたは謎をほしがっていましたね。最初の手紙を出したとき、私はこんなにも早く、奇々怪々な謎をたっぷりと差し上げられるとは夢にも思いませんでした。
そして……どうか私の言葉を信じてください……この事件が起きているあいだ、ずっとあなたの顔が私の目の前に浮かんでいたのです……あの輝かしい朝、ホテルの朝食室で見たあなたの顔が。私があなたにお付き合いを求めたとき、あなたはその無作法をお許しくださった。私はあなたの目を見たとき、強く、とても強く、心が動くのを感じたのです。
今、夜明けが庭にも訪れ、ロンドンは動き出そうとしています。というわけで、今回は……おはようございます、お嬢さん。
イチゴ男
第四章
この手紙が受取人の若い女性をいささかぎょっとさせたことは言うまでもない。その日はロンドンのあまたの名所も、ほとんど彼女の興味をひかなかった。実際、あまりにもつまらないので、汗だくの父親のほうは最愛のテキサスをまぼろしに見はじめるほどであった。そして一度だけ、期待をこめて、帰国を早めるのはどうかと打診したのだが、その提案に対する冷ややかな態度は明らかにそれが間違った期待であったことを示していた。彼はため息をつき、慰めを求めてバーにむかった。
その晩、テキサスから来た二人はヒズ・マジェスティーズ劇場へ出かけた。バーナード・ショーの新作がかかっていたのである。が、才気あふれるアイルランド人の作者も、うわのそらで台詞を聞いている一人の若くて美しいアメリカ人女性にはいらいらしただろう。そのアメリカ人は次の日の朝を熱心に待ち望みながら真夜中に床についた。
期待は裏切られなかった。なんの感情もあらわさないイギリス人の女中が、土曜日の朝早く、手紙を手にして枕もとに現れた。それを彼女は鼻を上にむけて手渡した。お手伝いはしますが、感心しませんね、とでも言うように。若い女は急いで封を切った。
親愛なるテキサスのお嬢さん
午後遅くこの手紙を書いています。陽があたる庭の芝生に長くて黒い影がのびています。そして世界があまりにも明るくたんたんとしているため、私が過ごしたあの悲劇の一夜が現実にに起きたことなのか、自分でもわからなくなるくらいです。
新聞を見ると、すべてが夢ではなかったかと思えてきます。一行どころか一語も触れられていないのですから。アメリカのことを考えてください。むこうでこんなことが起きたなら、今ごろ新聞記者がこのアパートじゅうに群れていたでしょう。それを思えば、なおさら驚かざるを得ません。しかし私はイギリスの新聞というものを知っています。あの偉大なジョー・チェンバレンが先日、夜の十時に亡くなりましたが、それを報じた新聞は、ようやく次の日のお昼に出たのでした。特種だ! と大声で叫んで。そりゃたしかに特種なんですけど……。国が違えば流儀も違うと言うわけでしょう。
ブレイ警部が事件をジャーナリストたちから隠すのは、恐らく難しいことではなかったはずです。そういうわけでイギリスの偉大にしてお粗末な新聞は、アデルフィ・テラスの大事件をなにも知らずに売られているのです。本物のニュースに飢えた新聞は、地平線に見える巨大な戦雲についてそれとなく報じはじめました。よろめくオーストリアがちびのセルビアに宣戦布告し、皇帝が今日ベルリンへ急遽帰還するという、彼になしうる最高の劇的展開があったものですから、だれもかれも全ヨーロッパがまもなく血の海になると思っているのです。炎熱の昼と、寝つかれぬ夜が生んだ悪夢です!
が、あなたがお聞きになりたいのは、きっとアデルフィ・テラスの事件についてでしょう。謎をさらに計り知れぬほど深める悲劇の続編が起きたのです。しかもそれに気がついたのは私だけ。しかし最初から話をしましょう。
私は夜明けにあなたへの手紙を投函して帰ってきました。一夜の緊張から、くたくたになっていました。私はベッドに横たわりましたが、寝ることができません。自分の置かれたひどく具合の悪い立場がますます気になってくるのです。ブレイ警部が私を見る眼も、私がこのアパートに下宿するに至った経緯を聞いたときの声も、私は気に入りませんでした。気の毒な大尉を殺した真犯人がつかまるまで、安心はできないと思いました。そこで私はこの事件の数少ない手がかり……シナギク、コガネムシのネクタイピン、ホンブルグ帽……をたよりに謎を解こうとしはじめたのです。
その時でした。ブレイが取るに足らずと、何気なくごみ箱に捨てた四部のデーリー・メールを思い出したのは。私は新聞を調べる警部の肩越しに、それが私たちの大好きな部分「苦悶の欄」を上にして折られてあるのを見たのです。たまたま私の机には先週のデーリー・メールがしまってありました。あなたにはその理由がお分かりでしょう。
私は立ちあがって、新聞を見つけ、読みはじめました。先ほどほのめかした驚くべき発見をしたのはその時です。
それに気がついてしばらくは、驚きのあまり呆然として、なにをすべきかもすぐには頭に浮かんでこないありさまでした。さんざん考えたあげく、ブレイが午前中に戻ってくるのを待ち、デーリー・メールを無視したのは誤りだ、と指摘してやることしました。
ブレイは八時ごろやって来て、その数分後、別の男が階段を上ってくるのが聞こえました。私はその時ひげをそっていたのですが、手早くそれを終えると、バスローブを羽織って大尉の部屋へ急ぎました。弟さんが夜中のうちに不運な男の死体を運び出させていました。ブレイと、ほとんど同時にやってきた見知らぬ男のほかには、眠そうな目をした巡査しかいませんでした。