WeRead Powered by ReaderPub
苦悶の欄 cover

苦悶の欄

Chapter 8: 第六章
Open in WeRead

About This Book

Set in London on the eve of war, an American expatriate becomes obsessed with the newspaper's personal-ad 'agony column' and a striking fellow American he notices at the Carlton Hotel. When she responds to an anonymous admirer by daring him to write seven letters, he undertakes the challenge, and the playful courtship through public messages draws him into a larger mystery of false identities, suspicious correspondence, and police scrutiny. The narrative interweaves light romantic comedy about newspapers and social ritual with escalating intrigue that involves military figures, detectives, and revelations that transform a flirtation into a matter of danger and investigation.

 ブレイの挨拶はあきらかに彼が不機嫌であることを示していました。しかし見知らぬ男……背の高い日焼けした男でしたが……はとても丁寧に自己紹介をしました。彼は故人の親友で、ヒューズ大佐であると言いました。言葉にならない驚きと悲しみを感じつつも、自分にできることがなにかありはしないかと訪ねてきたのだそうです。

 「警部さん」と私は言いました。「昨日の晩、この部屋でデーリー・メールを四部お手になさいましたね。なんの手がかりにもならないとごみ箱に捨てておしまいでしたが、驚くべき事実を説明したいと思いますので、もう一度手に取っていただけないでしょうか」ごみ箱の上に身をかがめるなど沽券にかかわると、この尊大なお役人は巡査にむかってあごをしゃくりました。巡査が新聞を持ってくると、私は一つを選び机に広げました。「七月二十七日の分です」と私は言いました。

 私は苦悶の欄の中ほどを指差しました。お嬢さんも新聞を取っておいででしたらご自分で確かめてください。こんなことが書いてあります。

 「ラングーン。カンタベリーの庭はシナギクが真っ盛りだ。とても美しい。特に白いやつは」

 ブレイはうなり、小さな目を見開きました。私は次の日二十八日の新聞を取り上げました。

 「ラングーン。我々はやむを得ず父のネクタイピンを売らねばならなかった。父がカイロから持ちかえったコガネムシの形をしたエメラルドのやつだ」

 ブレイはわたしの説明にすっかり引きこまれていました。彼は私の方に重くのしかかってきて、鼻息も荒いのです。大いに力を得て、私は二十九日の新聞を彼の目の前に広げました。

 「ラングーン。ホンブルグ帽は川の中に吹き飛ばされ、二度と見つからない」

 「そして最後に」と私は警部に言いました。「七月三十日の最後のメッセージです。フレイザー=フリーアが殺される十二時間ほど前に、通りで売られていました。ご覧ください」

 「ラングーン。今晩十時。リージェント通り。……Y.O.G.」

 ブレイは黙っていました。

 「警部もご存知でしょうが、フレイザー=フリーア大尉は過去二年間ラングーンに駐在していたのです」

 それでも彼は黙ったままでした。ただ私が大嫌いになりつつある、あの狐のような小さい目で私をみつめるだけでした。とうとう彼は険しい声で言いました。

 「どうやってこのメッセージを見つけたのだ」と彼は詰問するのです。「昨日の晩、私が出て行った後、この部屋に入ったわけじゃないだろうな?」彼は怒って巡査のほうを振りむきました。「命令したはずだ……」

 「違いますよ」私は口をはさみました。「私はこの部屋に入りませんでした。たまたま私の部屋にはデーリー・メールが整理されてあったのです。で、まったく偶然に……」

 私は自分がへまをしたことに気がつきました。これらのメッセージの発見談はあまりにもうまくできすぎています。またもや私のほうに疑いを招き寄せてしまいました。

 「いや、ありがとう」とブレイ。「これは覚えておくよ」

 「領事館の私の友人には連絡なさいましたか」と私は聞きました。

 「確認した。以上だ。お引取り願おうか」

 私は出て行きました。

 部屋に戻って二十分ほどすると、ノックの音がしました。そしてヒューズ大佐が入ってきたのです。彼は四十代前半とおぼしきにこやかな人物で、イギリス以外のどこかで日に焼けてきたのでしょう。こめかみのあたりには白髪がありました。

 「いやはや、なんともひどい事件ですな」と彼は前口上抜きで話しはじめました。

 「まったくです」と私は答えました。「どうぞお座りください」

 「ありがとう」彼は座るとためらうことなく私の目を覗きこみ、「警察官というのは」と意味ありげに付け加えました。「非常に疑い深い連中でね。理由もないのに疑いをかけることがしばしばあります。こんな事件に巻きこまれて、ご同情申し上げますよ。というのも、あなたは正直な方とお見受けいたしましたから。失礼ですが、味方が必要なのであれば、わたしが力になりましょう」

 私は胸を打たれました。そしてできるかぎり丁寧に感謝しました。彼の口調はとても同情的で親切で、しかもとりわけ誠実だったものですから、私は思わず彼にすべてを話してしまいました。アーチーと紹介状のこと、庭に魅了されたこと、アーチーという従兄弟など聞いたこともないという、大尉によってあかされた驚くべき事実、それに引きつづく私の面白くない立場。彼は椅子にもたれて目を閉じました。

 「思うに、封をしていない紹介状を持っていれば、誰でも中を開けてどんなふうに自分のことを褒めちぎっているのか見たくなる。それが人情と言うものでしょう。私もちょいちょいそんなことをしました。ひとつずうずうしくお聞きしたいのですが……」

 「いえ、そのとおりです」と私。「封をしてなかったので、私は中味を読んでしまいました。紹介状にしてはちょっと長いなという印象でした。褒め言葉もたくさんありました。エンライトとの短い付き合いを考えれば私を高く買いすぎているような感じでした。それから彼は自分がインターラーケンにどのぐらいいたかとか、八月一日頃にはロンドンに行く予定だとかも書いていました」

 「八月一日か」と大佐は繰り返しました。「明日ですね。さて、ご面倒でなければ、昨晩いったいなにがあったのか、話していただけませんか?」

 私はふたたびあの悲劇の夜の出来事をざっと振り返りました。口論、廊下で会った大男、そして彼がまれにしか使われない門を乗り越えて逃走したこと。

 「ねえ、君」ヒューズ大佐は帰ろうと立ち上がりながら言いました。「この悲劇の糸は遠くまで伸びています。あるものはインドへ、あるものは、名前は言えないが、別の国へとね。正直に言えば、私はこの事件に、大尉の友人として以上の関心を持っています。しかし、しばらくのあいだ、このことは私たちだけの秘密にしておいてください。警察は善意ではあるけど、ときどき馬鹿な間違いをします。あなたはたしか、あの妙な伝言の載っているデーリー・メールをお持ちだと言いましたな」

 「この机の中です」私は新聞を取り出して彼に渡しました。

 「よろしければ、持っていきたいのですが」と彼は言いました。「私があなたを訪ねたことは、もちろん口外してはいけません。また会いましょう。さようなら」

 そして彼は去って行きました。ラングーンへの奇怪な暗号を載せた新聞とともに。

 彼の訪問はなぜかすばらしく私を元気づけました。昨日の晩の七時以来、私ははじめて、再び自由に息をしはじめたのです。

 さて、謎が好きなお嬢さん、以上が一九一四年七月末日の午後における事件の模様です。

 私は今晩この手紙を送ります。これは三番目の手紙で、最初の手紙が運んだ夢よりも三倍も大きな夢を運んで行きます。というのはその夢は月が庭を照らす夜だけでなく、明るい日の光の中でも育つからです。

 ああ、私の心は今とても朗らかです。そういえば昨日の晩、シンプソンズで食事をして以来、ウオルタースが震える手でくれた一杯のコーヒーをのぞいてなにも食べていません。これから食事に行かなければ。まずグレープフルーツを食べるつもりです。私は急にグレープフルーツが好きになってしまったんです。

 こんな言い方は月並みですが……私たちは共通の趣味が多いですね!

もとイチゴ男

 「苦悶の欄」の文通相手から来た三番目の手紙は、二番目の手紙がカールトン・ホテルの若くて美しい女性の心に与えた興奮と緊張をさらに高めた。それを受け取った土曜日の朝、長いこと彼女は部屋の中でアデルフィ・テラスの謎を解こうと頭をひねった。英国インド陸軍フレイザー=フリーア大尉が心臓をナイフで刺され死んだことを初めて聞いたとき、その知らせは古い親友を失ったときのような衝撃を彼女に与えた。彼女は熱烈に殺人犯人の逮捕を望み、白いシナギク、コガネムシのネクタイピン、そしてホンブルグ帽から推理しうることを執拗に探った。

 彼女が犯人逮捕をこのように熱心に願ったのは恐らく、今だに名前も知らない、もちろん話したこともない、この快活な若い友達が事件に巻きこまれ危険にさらされていたからだろう。ジェフリー・ウエストについて知りえたこと、つまりレストランでの何気ない一瞥と、そしてなによりも手紙を通して、彼女は彼をこの上なく好きになりつつあった。

 そこへ例の帽子とネクタイピンとシナギクが、そもそも彼らの出会いを作ったデーリー・メールのあの欄と関係していることを告げる三番目の手紙が来た。たまたまその週の最初の四日分の新聞が彼女の手元にもあった。彼女は自分の居室に行って、新聞を引っ張り出し、はっと息を呑んだ。月曜日の新聞の私事広告欄からじろりと彼女を見上げたのは、カンタベリーの庭のシナギクに関するラングーンへの暗号ではないか。他の三つの新聞にもイチゴ男が引用したのとおなじメッセージが載っていた。彼女は座ったまま、一瞬、考えこんだ。いや、実際は、朝食を一緒に食べに行こうと一階のロビーで一時間も待たされ、腹を減らしてかんかんになった父親のノックの音が聞こえるまで座っていたのである。

 「なにをしてる! 行こう!」部屋に入ってきた父親の声が響き渡った。「午前中ずっとここに座っている気か。お前の腹は空いてないかもしれないが、わしはぺこぺこなんだ」

 彼女は即座に詫びを言い、いっしょに下へ降りる準備をした。その日の行動計画を立てながら、彼女はアデルフィ・テラスのことは一切考えまいと固く決心した。彼女がどの程度それに成功したかは、その晩の夕食前の父親の言葉を聞けば分かるかもしれない。

 「マリアン、口がきけなくなったか? 新しく選任された役人みたいに打ち解けないな。我々の遠征をもう少し活気づけてくれないなら、荷物をまとめて帰国するぞ」

 彼女はにっこり笑って父親の肩をたたき、これから気をつけることを約束した。しかし父親は憂鬱そうであった。

 「いずれにせよ、帰るべきだと思うんだがね」と彼はつづけた。「わしの見るところ、この戦争は燎原の火さながらに広がるだろう。皇帝は昨日ベルリンに戻った。動員令に署名することは確実だ。この一週間というもの、ベルリンの証券取引所ではカナディアン・パシフィックの株が下がりつづけておる。これはイギリスの参戦が予想されるということだ」

 彼は陰鬱に未来をみつめた。アメリカの政治家にしてはヨーロッパの政局に対し並外れた理解を持っているように見えるかもしれないが、なんのことはない、彼は先ほど、カールトン・ホテルの靴磨きと話をしていたのである。

 「うむ」彼は急に決心して言った。「わしは月曜日の朝一番に汽船会社の事務所に行ってくる」

第五章

 娘はその言葉を聞いて落胆した。あれほど彼女を夢中にさせた謎の解決を永遠に手に入れることなく、リヴァプールかサウサンプトンから船出する、はなはだ不幸な自分の姿を思い描いた。彼女は抜け目なく父親の心を食べ物のほうにそらそうとした。食事をするならストランド街のシンプソンズがどこよりもおいしいんですって。歩いて行ってみない? 彼女は、ちょっと遠回りしてアデルフィ・テラスを通って行こうと言った。彼女は以前からアデルフィ・テラスを見たかったようであった。

 静かなストランド街を通るとき、家々のいかめしくて近づきがたい門構えと、その後ろの素敵な庭を念入りに調べながら、彼女は奇怪な謎のありかを探そうとした。しかしどの家も皆よく似ているのである。そのうちの一軒の前にタクシーが止まっているのを彼女は見た。

 夕食のあと、父親は「お茶のカップばかり出てくる気取ったイギリスの劇」を見るよりミュージックホールに行こうと熱心に訴えた。彼の勝ちであった。その夜遅く、彼らがカールトン・ホテルへ帰るとき、街頭で号外が配られていた。ドイツが戦時体制に入った!

 テキサスの娘は、明日の朝はどんな手紙が自分を驚かしてくれるだろうと思いつつ、床についた。次の日、こんな手紙が届いた。

 親愛なる上院議員の娘さんへ

 それとも下院ですか? どちらかはっきり分かりませんでした。しかしテキサスのおうちにいらっしゃらないときや、娘さんの目を通してヨーロッパをご覧になっていないときは、きっといずれかの立派な組織の議員をなさっているのでしょう。それぐらいのことは一目で分かりました。

 しかしワシントンはロンドンから遠く離れています。そして私たちの最大の関心事はロンドンなのです。もっともお父さんの選挙区民にそんなことを知らせてはいけませんが。いったん旅行者気分が抜ければロンドンは実にすばらしい驚くべき都市です。私は今、七歳のときにこの都市にほれこんでしまったという新聞記者が書いた、それは魅力的なエッセイを読んでいます。七歳というのは彼にとって光り輝く都市のすべてがハイストリートの角のフィッシュ・アンド・チップスに象徴されるような年頃です。私は彼と連れ立って真夜中、秘密めいた灰色の大通りを歩きました。時にはゴミ箱にぶつかり、時にはロマンスにぶつかりながら。いつかあなたにそんなロンドンをご紹介したい。もちろんゴミ箱からあなたをお守りしますよ、あなたがゴミ箱から守ってあげる必要のある人なら。でも、考えてみたら、あなたはそんなボンヤリさんじゃありませんよね。

 あなたが聞きたいのはアデルフィ・テラスのこと、今は亡き英国インド陸軍大尉のことだということは分かっています。昨日は、デーリー・メールであのメッセージを発見し、ヒューズ大佐の訪問を受けたあと、何事もなく過ぎて行きました。晩はあなたへの三通目の手紙を出して、しばらくこの都会のぎらぎらした光と薄暗闇を交互に通りすぎながら、歩いて部屋に帰りました。そして六百万の家々に住む人々が暑さにうだっているなか、私はバルコニーで煙草をくゆらせたのでした。

 なにも起きませんでした。私は少々がっかりし、少々だまされたような気がしました。何日も立てつづけにどきどきするような劇を見たあと、初めて晩を家で過ごしたときに感じる、だまされたような気分です。今日、八月の第一日がはじまったのに、なにもかもがなりをひそめたように静かでした。実は、フレイザー=フリーア大尉の突然の死が、さらなる展開をとげて私を動揺させたのは、今日の夕方になってからでした。それはまことに奇怪きわまる展開で、早速そのお話をしようと思います。

 私は今晩、ソーホーの小さなレストランで食事をしました。私についていたウエイターはイタリア人だったので、私は愚かしくも得意げに「十課で覚えるイタリア語」を使って話しかけ、面白がっていました。私たちは彼が住んでいたフィエゾレの町について話をしました。かつて私は月明かりのなか、フィエゾレから丘を下ってフローレンスまで旅したことがあります。バラの花が鮮やかに咲き誇る、どこまでもつづく壁は忘れられません。そしてさびしい女子修道院と門をガチャンと閉める二人の灰色の長服を着た尼僧。また、軍隊の夜営地からさすサーチライトがアルノー川と家々の屋根をしきりに飛び跳ねる様子も覚えています。それは、ここヨーロッパでは、閉じることのない軍神マルスの目のようでした。そして花々が絶えず上のほうからこっくりこっくり首をたれ、ときどきかがみこんでは私の顔をかすめるのです。私はこの先に待っているのは二流ホテルではなく、天国じゃないかと思うようになりました。今だってあんな旅ができるんじゃないかと思いますよ。いつの日か、いつの日か……。

 私はソーホーで食事をし、暑い湯気の立つ八月のたそがれ時に、アデルフィ・テラスに戻りました。私を巻きこんだ謎は一応、動きを止めたように思われました。アパートの前に客待ちのタクシーが停まっていましたが、別にどうとも思わず、私は暗い廊下に足を踏み入れ、のぼりなれた階段をのぼりました。

 部屋のドアが開いていました。書斎は暗く、ただ外からロンドンの街の灯が射しこんでいるだけです。入り口を入ると、かすかに甘いライラックの匂いがしました。庭にはライラックの花はなく、あったとしても、今はその季節ではありません。いえ、この匂いは女性によって持ちこまれたのです……机の前に座り、私が入ると同時に頭をあげた女性によって。

 「勝手に入ってごめんなさい」彼女は英語を本で覚えた人に特有の、正確で完璧な言葉づかいをしました。「少しお話があるのです。すぐ帰りますから」

 私はなにを言っていいのか分かりませんでした。ただ小学生のように口を開けて突っ立っていました。

 「私はご忠告を申しあげたいのです。忠告する人って好かれるとはかぎりませんわね。それでもあなたなら聞いてくれると思いますの」

 その時やっと口がきけるようになりました。

 「聞いていますとも」と私は間抜けのように言いました。「でも、まず明かりを」そしてマントルピースの上のマッチに手を伸ばしました。

 女はすばやく立ち上がり、私とむかい合いました。彼女はベールをかけていました。厚手のベールではなく、ふわふわしたあだめいたものでしたが、しかし顔を隠すには十分でした。

 「お願いですから」と彼女は大きな声で言いました。「明かりはつけないで」私がぐずぐず返事をしないでいると、口を尖らせるような調子でこう付け加えました。「大したお願いではないでしょう。どうかお断りにはならないで」

 私は明かりをつけると言い張るべきだったと思います。しかし彼女の声はチャーミングで、物腰は非の打ち所がなく、ライラックの匂いはずっと昔の我が家の庭を思い出させました。

 「分かりました」と私は言いました。

 「よかった。感謝しますわ」と彼女は答えました。彼女の口調が変りました。「この前の木曜日の晩、七時少し過ぎに、あなたは上の部屋から争う音を聞いたのですね。警察に証言したのはそういう内容でしたわね」

 「そうですよ」と私。

 「時間は間違いありませんか」私は彼女が笑っているような気がしました。「もっと遅かったとか、早かったのではありませんか」

 「七時すこし過ぎに間違いないです」と私は答えました。「なぜかと言うと、ちょうど夕食から帰ってきて、鍵を開けているときに国会議事堂のビッグベンが……」

 彼女は押しとどめるように手を挙げました。

 「どうでもいいことです」と彼女は言いました。その声には鉄のような響きがありました。「あなたはもうはっきりとは覚えていないのです。考え直してみたら、争う音を聞いたのは六時半より前だったかもしれない。そう結論するようになったのです」

 「ほう?」と私は言いました。嫌味をこめて言ってやろうとしたのですが、私はすでに彼女の調子に気を呑まれていました。

 「ええ、そういうことなんです!」と彼女。「ブレイ警部に今度会ったら、そう言うのです。『六時半だったかもしれない』そう言うのです。『もう一度考え直したら、はっきりしなくなった』と」

 「いくらすてきな女性に頼まれても、こんな重要な事柄に関して事実を捻じ曲げることはできません。あれは七時過ぎ……」

 「私は女性のためになにかをしてほしいと言っているのではありません」と彼女は答えました。「あなたのために、そうしてほしいと言っているのです。お断りになればあなたにとってとても困ることが起きるかもしれませんよ」 

 「なんの話なのか、さっぱり……」

 彼女は一瞬、黙りこみ、そしてむき直りました。私は彼女がベール越しに私をみつめているのを感じました。

 「アーチボルド・エンライトとは誰ですか」と、彼女は言いました。私は愕然としてしまいました。彼女が手にしている武器がなにか分かったのです。「警察は」と彼女はつづけます。「あなたが大尉のところへ持って行った紹介状が、フレイザー=フリーアを親愛なる従兄弟と呼ぶ男によって署名されていたことも、それが大尉の家族のまったく知らない人であったことも、まだ知りません。しかし、いったんその情報がスコットランドヤードに届けば、あなたが逮捕を逃れる見こみは、まずありませんよ。警察はあなたと事件を結びつけることはできないかもしれない。でも、あなたはとても厄介な立場に追いこまれるでしょう。個人の自由って大切にすべきじゃありません? それに事件に決着がつく前に、広く世間の注目を浴びてしまいます……」

 「それで?」

 「それであなたは争いを聞いた時間に関して記憶違いをするのです。考え直してみると、あれは七時じゃなくて六時半だったかもしれないと。さもないと……」

 「さもないと?」

 「さもないと、大尉に渡した紹介状が、匿名でブレイ警部の元に送られるでしょう」

 「手紙を持っているのか!」と私は叫びました。

 「私は持っていません」彼女は答えた。「でも手紙はブレイに送られます。あなたは嘘をついていたことがばれるでしょう。そうなったら逃げられませんよ!」

 私はとても不安になりました。疑惑の網の中に追いこまれてしまったような気分でした。しかし私はこの女の自信に満ちた声に憤慨してもいました。

 「それでも証言を変えることは拒否します。真実は真実ですから……」

 女はすでにドアのほうに移動していました。彼女は振り返りました。

 「あしたは」彼女が答えました。「ブレイ警部に会えそうですね。先ほど言ったとおり、私は忠告をしにここに来たのです。おとなしく従ったほうが身のためですよ。三十分早くても、遅くても、どうでもいいじゃないですか。しかもその違いがあなたには監獄を意味するのです。おやすみなさいまし」

 彼女は出て行きました。私は廊下まで追いかけていきました。下の通りのほうからタクシーががたがたと走りだす音が聞こえました。

 私は部屋に戻り、座りこみました。気が動転したのです。窓の外では都会が絶え間なく交響楽を演奏しています。バス、列車、決して止むことのない人声。私は外をみつめました。冷ややかな煉瓦の家々がひしめき、冷ややかなイギリス人どもが住んでいる、なんと広大な土地なのでしょう! 私はひどく孤独を感じました。付け加えて言えばすこしおびえてもいました。まるでこの巨大な都市がゆっくりと私に迫ってきたような気がして。

 あの謎の女は何者なのか? フレイザー=フリーア大尉の人生に対して、そして恐らくその死に対してもでしょうが、どんな関係を持っているのか。なぜ厚かましくも私の部屋に来て、とんでもない要求をつきつけるのか。

 私は、安らかな生活を犠牲にしても、真実に固執すべきだと決心しました。そして私はその決心を手放すことはなかったはずです、間もなく別の人が私を訪ねてこなければ。この訪問は最初の訪問よりはるかに不可解で驚くべきものでした。

 ウオルタースが私のドアをたたいて、二人の紳士が面会を望んでいると告げたのは、九時ぐらいのことでした。すぐさま私の書斎に入ってきたのはノーマン・フレイザー=フリーア中尉と立派な老紳士で、後者は貴族の家の壁に掛かっている色あせた肖像画のような顔をしていました。初対面の相手です。

 「お邪魔ではないでしょうね」と若いフレイザー=フリーアが言いました。

 私は大丈夫ですと請合いました。青年の顔はげっそりやつれていました。目には恐ろしい受難の色がありましたが、それでも彼の身体からは、強い決意が光輪のようにあふれているのです。

 「父を紹介いたします。フレイザー=フリーア将軍、退役将校です。ここに来たのはとても重要な用件のためでして……」

 老紳士がなにかをつぶやきましたが聞き取れませんでした。私に分かったのは、彼が長男を失いショックを受けていることでした。椅子を勧めると、将軍はそれに応じましたが、青年は苦悩に満ちた様子で床を歩くのでした。

 「長居はいたしません」と彼は言いました。「また、こういう時は、もってまわった話し方をする気になれません。直截に申しましょう。我々はあなたに折り入って頼みがあるのです。とても重要なお願いです。お断りになるかも知れませんが、そうであったとしても我々はあなたを非難などできません。しかし、あなたが、もしも……」

 「一生のお願いなのです」と将軍が突然割ってはいってきました。「しかし、おかしな話ですが、私には、願いをきいてもらったほうがいいのか、断わられたほうがいいのか、分からんのですよ」

 「お父さん、どうか、僕が言いますから……」青年の声には思いやりがこもっていましたが、しかし断固としていました。彼は私のほうにむき直りました。

 「あなたが警察に証言なさったところによると、七時をちょっと過ぎた頃に、上の部屋から争う音が聞えてきたんですね。その結果、わたしの兄は命……つまり、その……お分かりになりますね」

 一時間足らず前に帰った訪問者の目的を思い合わせるなら、青年の質問は驚くべきものでした。

 「そのように証言しました」と私。「それが真実ですから」

 「当然です」フレイザー=フリーア中尉が言いました。「しかし……ええと……実は、我々がここに来たのは、あなたに証言を変えてもらえないかとお願いするためなのです。どうか、残酷にも身内を失った私たちに免じて……一生この恩は忘れませんが……争いのあった時間を六時半にしてはもらえないでしょうか」

 私はあっけにとられてしまいました。

 「その……理由は?」私はやっとのことで声を出し、訊くことができました。

 「詳しいことはお話しできません」と青年が答えました。「ただ、これだけは申しあげましょう。この前の木曜日の晩七時に僕はたまたまサボイ・ホテルで友人たちと食事をしていました。あのときのことを忘れそうにない友人たちと」

 年老いた将軍が飛びあがりました。

 「ノーマン」彼は叫びました。「お前にこんなことをさせるわけにはゆかん! 断じて……」

 「お父さん、静かにしてください」青年はうんざりしたように言いました。「とことん話し合ったじゃありませんか。お父さんは約束なさったんですよ……」

 老紳士は椅子に沈みこみ、手で顔を覆いました。

 「もしも証言を変えてくださる気があるなら」と若きフレイザー=フリーアはつづけて言いました。「僕はただちに警察に行って、兄を殺したのは……僕だったのだと告白します。警察は僕を疑っています。連中はこの前の木曜日の午後遅く、僕が拳銃を買ったことを知っています。土壇場になってそれはナイフに代えられたのだと思っています。連中は僕が兄に借金をしていたことを知っています。そして金のことで喧嘩したことも。それから兄が死ぬことで得をするのは僕だということ、僕だけなんだということも」

 彼は急に言葉を切り、私のほうにむかってきました。両腕を前に差し出し、二度と忘れることのできない嘆願の身振りをして。

 「僕のためにそうしてください」と彼は声をあげました。「僕に自白させてください。この恐ろしい出来事を今ここで終わらさせてください」

 そんな頼みに返事をしなければならなかった人など、今までひとりもいなかったにちがいありません。

 「どうして?」私は思わずそう言い、何度もそれを繰り返していました。「どうして? どうして?」

 中尉は私のほうを振りむきましたが、私はあのような目つきを二度と見たいと思いません。

 「兄を愛していたからです」彼は言いました。「だからです。兄の名誉のため、一族の名誉のため、僕はあなたにこんなお願いをするのです。信じてください、こんなお願いはほんとうにつらい。僕からは、これ以上のことは申し上げられません。兄とはお付き合いがありましたか」

 「ほんのご近所付き合いですが」

 「では、兄のために……僕の願いを聞いてください」

 「しかし……殺人となると……」

 「あなたは争いの音を聞いた。僕は兄と喧嘩したのだ、と言うつもりです。そして正当防衛として兄に打ちかかったのだと言います」彼は父親のほうにむき直りました。「ほんの数年間、刑務所に入るだけのことです……僕は耐えます!」彼は叫びました。「一族の名誉のために!」

 老紳士はうめき声を発しましたが、頭は上げませんでした。青年は色あせた絨毯の上を、檻の中のライオンのように行ったり来たりしました。私はどう答えたものだろうと迷いながら立っていました。

 「なにをお考えになっているのか分かりますよ」と中尉。「ご自分の耳を信じられないでしょうが、お聞きになったとおりなのです。すべては……あなた方アメリカ人の言い方を借りれば……あなたにかかっているのですアップ・トゥー・ユー。あなたのお国に行ったことがありましてね」彼はみじめな笑みを浮かべました。「僕はアメリカ人を理解しているつもりです。あなた方は悲嘆にくれた人間を、今の僕のような人間を、拒むような人たちではない」

 私は彼にむけた視線を将軍のほうに移し、そしてまた彼を見ました。

 「よく考えなければなりません」と私はとっさにヒューズ大佐のことを思い出しながら答えました。「後ほど……明日にでも……結論をお伝えします」

 「あした」と青年が言いました。「僕たちはブレイ警部の前に呼び出されるでしょう。その時、お答えが聞けるでしょうね。それがイエスであることを心から望みます」

 別れの挨拶もそこそこに、彼と傷心の老紳士は出て行きました。表の戸口が閉まるや、私は急いで電話口に行き、ヒューズ大佐がくれた番号に電話をかけました。電話線のかなたからふたたび彼の声が聞こえたとき、私はほっと胸をなでおろしました。私はすぐに会う必要があると言いました。彼は、不思議な偶然ですが、ちょうど私のところに来ようとしていたのだと言いました。

 大佐が来るまでの半時間、私は夢うつつの状態で歩き回りました。彼がドアから入ってくるや、私は二つの驚くべき訪問の話を浴びせかけはじめました。女の訪問に関しては、彼はほとんどなにも言いませんでした。ただ、どんな様子をしていたか教えてほしいと言い、私がライラックの香水のことを話すと、にこりと笑いました。フレイザー=フリーア青年の荒唐無稽な願い事の話しをすると、彼は口笛を吹いてこう言いました。

 「なんと! 面白い。実に面白い。しかし驚きはしませんな。あの青年はみどころがありますよ」

 「だけど私はどうしましょう」と私は聞きました。

 ヒューズ大佐は微笑みました。

 「あなたがなにをなさろうと、大勢に影響ははないのです」と彼は言いました。「ノーマン・フレイザー=フリーアは兄を殺していません。それはそのうち証明されることです」彼はちょっと考えて「ブレイはあなたが証言を変えればきっと喜ぶでしょう。彼は事件と青年中尉を結び付けようとしてますからね。いろいろ考え合わせた上で言えば、もし私があなたの立場だったら、明日、機会を見計らって警部を満足させるようなことを言いますな」

 「つまり……争いがあった時間はまちがっていたかもしれないと?」

 「そうです。あなたがそう言ったからといって、フレイザー=フリーア青年が永遠に罪を負わされたりしないことは保証しますよ。それに、そうしてくれると、私にも都合がいいのです」

 「そうですか」と私は言いました。「でも私にはなにがなんだかさっぱり分かりません」

 「そうでしょうとも。説明したいのは山々ですが、できないのです。こう言っておきましょうか。フレイザー=フリーア大尉の死を陸軍省は極めて重大視している。そして暗殺者を追って、全く別の捜査が二つ同時に進行している。一つはブレイが指揮し、もう一つは私が指揮している。ブレイは私がこの事件の捜査に当たっていることを知らないし、私はできるかぎり知られたくないと思っている。あなたは好きなほうの捜査に協力していただいて結構です」

 「私はブレイより、むしろあなたに協力します」

 「よろしい!」と彼は答えました。「あなたは今までうまくやってきましたよ。もしもよければ、今晩、私の手助けをしてくれませんか。そのお願いをするために、電話をもらう前から、こっちへ来ようとしていたんですよ。あなたはアーチボルド・エンライトと名乗った男、大尉宛ての紹介状を書いた男を、まだ覚えていて確認することができますね?」

 「もちろんできますとも」と私は言いました。

 「では、私のために一時間ほど時間を割いてください。どうか帽子の用意を」

 そう言うわけで、カールトン・ホテルのお嬢さん、私はつい先ほどライムハウスへ行ってきたところなのです。ライムハウスがどこか、あなたはご存知ではないでしょうし、これからも知ることはないと思います。そこは絵になると同時に、吐き気を催させ、色鮮やかにして邪悪なのです。得体の知れない匂いがまだ鼻の中に満ちています。不吉な景観が、まだ目の前に浮かんでいます。そこ、ライムハウスはロンドンのチャイナタウンなのです。よこしまな道とむなしい犯罪の匂いを芬々とさせながら、ウエスト・インディア・ドック通りを中心に、都会の残りかすの底に横たわっているのです。異教徒中国人のあの特異な姿だけでなく、さまざまな人種とさまざまな土地のならず者が薄暗い明かりの路地をうろつき回っています。アラブ人、インド人、マレー人、日本人、コンゴから来た黒人、スカンジナビアから来た白人……七つの海を渡るあらゆる船から吐き出された連中を見ることができます。ここでは酔っ払った獣どもが大勢、給金をポケットに、それぞれ好みの罪悪を求めるのです。阿片が好きでたまらない連中のためには、計ったように一定の間隔をおいて阿片ランプの看板が並んでいます。

 ヒューズ大佐と私はそこに入って行きました。狭いライムハウス通りは、うす暗い店からさす明かりでところどころ黄色く照らされていたものの、ほとんど真っ暗といっていいでしょう。店はよろい戸を堅く閉ざし、かすかな光の筋しか外に洩れてこないのです。そこをさんざん歩き回って、とうとう立ち止まったのがハリー・サン・リーの「レストラン」の黒い入り口の外の暗闇でした。私たちは十分、十五分と待ちました。すると一人の男が通りをこちらへやって来て、そのドアの前で立ち止まったのです。男の意気揚揚とした歩き方は、どこかで見たことがあるような気がしました。そのときランプのかすかな光が……それはハリー・サンのほんとうの商売を示すものなのですが……男の青白い顔に当たって、私はこのまえ、インターラーケンの涼しい晩に、その男を見たことを思い出しました。ユングフラウが睨むように見下ろし、ライムハウスなど一瞬たりとも生きていくことができないあのインターラーケンで。

 「エンライトかね」とヒューズがささやきました。

 「間違いありません!」と私。

 「よし!」彼は力をこめて答えました。

 すると今度は別の男が通りをやって来て、大佐の前で急に直立不動の姿勢をとりました。

 「奴を見張れ」とヒューズは静かに言いました。「目を離してはいかんぞ」

 「分かりました」男は敬礼すると階段を上り、黒い憂鬱なドアにむかって軽く口笛を吹きました。

 ミルウオール・ドックの時計が十一時を打ったとき、大佐と私はバスに乗り、明るく楽しいロンドンへ戻るところでした。バスの中でヒューズはほとんど口をききませんでした。そしてあしたはブレイ警部を満足させてやりなさいという忠告を繰り返して、ストランド街に私を残し、去って行ったのです。

 お嬢さん、こうして私は今、自分の書斎に座って、間もなく夜明けとともに訪れるもっとも重要な日を待っているのです。今晩は波瀾に満ちた一晩でした。あなたもそれは認めてくれるでしょうね。ライラックの香水をつけた女に、嘘をつかなければとんでもない目にあうだろうと脅され、ハンサムな青年中尉からは、家族の名誉ためにそのおなじ嘘をついて、彼が確実に逮捕監禁されるよう協力してくれと頼まれる。そして今晩、私は地獄へ行き、インターラーケンで会ったアーチボルド・エンライトが悪魔と手を結んでいるさまを見ました。

 寝なければいけないのですが、寝つけないことは分かっています。あした、大尉殺害事件が山場を迎えることは間違いありません。そしてふたたび、私は自分の意に反して主役を勤めることになってしまいました。

 この巨大な灰色の悲しい都市の交響楽は、今は単なる遠くのざわめきに過ぎません。なにしろもう真夜中に近いのですから。これからこの手紙を出しにいきます……ここはロンドンですからイギリス風に「投函するポスト」というべきでしょうか……その後は自分の薄暗い部屋で夜明けを待ちます。待ちながら私は大尉やその弟やヒューズやライムハウスやエンライトのことばかりでなく、しばしば……いえ、何度も何度も……あなたのことを考えるでしょう。

 この前の手紙で私は世界大戦なんてばかばかしいと言いました。しかし今晩ライムハウスから帰ってくると、皇帝は動員令に署名をしたと新聞が伝えていました。オーストリア参戦、セルビア参戦、ドイツ参戦、ロシアとフランス参戦。ヒューズが言うには、イギリスも、もうすぐそれにつづくそうです。私もそれに間違いないと思います。恐ろしいことになりますよ、我々の前に立ちはだかる未来は。私は、少なくともあなたには、幸せだけがもたらされることを祈っています。

 お嬢さん、私がお休みと書くとき、書きながら声に出して言っているのです。そして私の声には、今はまだとてもお話しできないような気持ちがこめられているのです。

苦悶の欄の男

 テキサス娘のすみれ色の目ににくからず映ったのは、日曜日の朝、自室で読んだ手紙の最後の文句であった。しかしイギリスの早期参戦を予想した一文は、思わぬ不都合の出来しゅったいを彼女に思い起こさせた。昨晩、戦争を知らせる号外が出て、お気に入りの靴磨きの予測が正しいことを確認したとき、普段は落ち着いている父親がうろたえた様子を見せた。父親は悠長な人間ではない。それに父親は重要と見なしていない事柄に関しては、娘の言うがままになるのだが、断固たる態度の必要ありと認めれば、テコでも動かなくなることを、彼女はよく知っていた。彼にはアメリカがいつにもましてすばらしい国に見えるらしく、即刻帰る決意をしたのである。反論はなんの効果ももたなかった。

 その時ドアをノックする音が聞こえ、父親が入ってきた。その真っ赤な、汗だくの、どう見ても不満そうな顔を一目見て娘は元気づいた。

 「汽船会社に行って来たんだが」と彼ははげた頭を拭きながらぜいぜい息をした。「平日とおなじように営業していたよ。しかし休業してるも同然だった。なにもできないのだから。どの船も予約で手すりまで一杯だ。ここを脱出するには二週間はかかる。もしかしたらそれ以上かかるかもしれん」

 「残念だわ」と娘は言った。

 「いいや、そうじゃあるまい。お前は喜んでいるだろう。こんなふうに足止めを食うのはロマンチックな小説みたいだと思っておるだろう。わしも若いころの情熱を取り戻したいものだ」彼は新聞紙で顔をばたばたとあおいだ。「幸い昨日、至急運送便取扱所に行って金貨をいっぱいおろしておいた。攻撃がはじまったら、この町で小切手を現金にするのはいささか難しくなるだろうからな」

 「それは賢明だったわ」

 「朝ご飯に行く準備は?」

 「ちゃんとできてるわよ」彼女は微笑んだ。

 二人は下へ降りた。娘はレビューの小唄を口ずさみ、父親はそんな彼女を睨んでいた。彼女はもうしばらくロンドンにいられることがうれしくてならなかったのである。あの謎がまだ未解決なのに、出発なんてできるものですか、と彼女は思った。

第六章

 長く辛い戦禍の日々の中で、ロンドンの人々が、あれが最後の平和な日曜日であったのか、と思うことになるその日は、緊張と不安に包まれ過ぎて行った。月曜日の朝早く、苦悶の欄の青年から五番目の手紙が届いた。テキサスの娘はそれを読んで、なにがあっても今ロンドンを離れることはできないと思った。

 こんな内容だった。

 母国からいらした親愛なるお嬢さん

 こんな風にあなたをお呼びするのは、この暑いロンドンの午後、私にとって母国という言葉くらい心地よい響きを持つ言葉はないからです。真昼のブロードウェー。ハイカラな服を着た上流階級の人々は休暇に出かけていないけれど、それでも陽気ではつらつとした五番街。木陰は涼しく、ブルックリンやクイーンズなど南側の区域に住む外国人の姿が至る所に見られるけれど、それにもかかわらず美しくて素晴らしいワシントンスクエア。目を閉じればこんなものが浮かんできます。私は母国に帰りたくて、居ても立ってもいられません。ロンドンがこれほど残忍で、絶望的で、重苦しく思えたことはありませんでした。というのも、この手紙を書いている私の傍らには巡査が座っていて、彼と私は間もなくスコットランドヤードへむかうことになっているのです。私はフレイザー=フリーア大尉殺害容疑で逮捕されたのです!

 昨晩、私は、今日が事件の最大の山場になるだろうと予想しました。また自分がこのドラマの中でしぶしぶですが一役務めなければならないことも分かっていました。しかし朝とともに起きた一連の思いがけない出来事は、まったく想像を越えていました。恐れていた疑惑の網が、今日、私を包みこむとは夢にも思いませんでした。ブレイ警部が私を拘留するのは仕方がないと思います。理解できないのはなぜヒューズ大佐が……。

 いや、あなたはもちろんすべてをはじめからお聞きになりたいでしょう。だから最初から話します。今朝の十一時に一人の巡査が私の部屋にきました。そして、警部からの要請で、私はすぐにスコットランドヤードへ出頭しなければならない、と言うのす。

 私たち、つまり巡査と私は、ニュースコットランドヤードの裏のどこかにある狭い階段を上って、警部の部屋に行きました。ブレイが私たちを待っていました。彼は微笑を浮かべ、自信に満ちあふれていました。私は、くだらない些細なことなんですが、彼が白いバラをボタン穴につけていたことを覚えています。彼はいつもより愛想よく私に挨拶しました。彼はまず、警察は大尉殺害の容疑者を逮捕したと言いました。

 「一つ確認したいことがあるのだ。君は上の階から争う音が聞こえたのは、七時を少し回ったころだと言った。あの時の君は、少々興奮気味だった。ああした状況に置かれたら、人は間違いを犯すものだ。あれから考え直してみたかね。時間を間違った可能性はないかね」

 私は警部を満足させてやれと言うヒューズの忠告を思い出し、考え直した結果、なんだか自信がなくなってきた、と言いました。七時より前だったかもしれません……六時半とか。

 「そうだろう」とブレイは言いました。彼は気をよくしたようでした。「ああした場合は緊張して当然だな……分かるよ。ウィルキンソン、在監者を連れて来い」

 命令を受けた巡査は回れ右をして部屋を出、すぐノーマン・フレイザー=フリーア中佐と戻ってきました。青年は青ざめていました。一目で彼が何日も寝ていないことが分かりました。

 「中尉」ブレイは語気も鋭く言いました。「あなたのお兄さん、亡くなった大尉が一年ほど前にあなたに大金を貸し付けたというのはほんとうですかな」

 「ほんとうです」中尉は小さい声で答えました。

 「あなたとお兄さんは、あなたが使ったお金の額について喧嘩をしましたな」

 「はい」

 「お兄さんが死んだことで、あなたは将軍であられるお父様のただ一人の相続人になった。高利貸したちとの関係もがらりと変った。正しいですかな」

 「そうだと思います」

 「先週の木曜日、あなたはアーミー・アンド・ネイビー百貨店へ行き、回転式連発拳銃を買った。あなたは軍用の銃を持っていたが、そんなもので人を殺せば、警察の殺人捜査は、ばかばかしいほど簡単になりますからな」

 青年はなにも答えません。

 「こう考えてみようか」とブレイはつづけました。「先週の木曜日の夕方六時半に、あなたはアデルフィ・テラスのお兄さんの部屋を訪ねる。金をめぐって口論が持ちあがる。あなたは逆上する。お兄さんさえいなければ、欲しくてたまらない財産はあなたのものだ。そして……ただ想像しているだけだがね……あなたは机の上にお兄さんがインドから持ちかえった奇妙なナイフを見つける。拳銃よりも音がしないから安全だ。あなたはそれを引っつかみ……」

 「なぜ想像なんですか」と青年が話をさえぎりました。「僕はなにも隠そうとしていませんよ。あなたの言うとおり、僕がやったのです! 僕が兄を殺しました! さっさとこの事件を片づけてしまいましょう」

 その瞬間、ブレイ警部の顔にある表情が浮かびました。それは次々と事件が起きる今日一日の緊張と波瀾のなかにおいてさえ、ずっと私を悩まし、繰り返し繰り返し心に浮かんでくる表情なのです。この告白に彼がショックを受けたことはあまりにも明白でした。こんなにあっけない勝利は、彼には虚しく感じられるのだろうと私は思いました。彼は青年が戦いを挑むことを望んでいたのでしょう。たぶん警察官というのは、そういう人種なのです。

 「君」と彼は言いました。「気の毒だが、仕方がない。部下と一緒に来てくれれば……」

 その時でした、警部の部屋のドアが開いて、落ち着き払った笑顔のヒューズ大佐が入ってきたのです。ブレイは軍人の姿を見て得意げに含み笑いをしました。

 「大佐」と彼は言いました。「いいところにきた。今朝、あなたと大尉殺しの共同捜査をするという名誉な話を聞いたとき、あなたはおろかしくもささやかな賭けを申し出ましたな……」

 「覚えていますよ」ヒューズが答えました。「あなたが勝てばコガネムシのネクタイピンを、わたしが勝てばホンブルグ帽をもらう。そういう取り決めでしたね」

 「そのとおり」とブレイ。「あなたは、私じゃなくて、あなたが犯人を見つけることに賭けた。さて、大佐、コガネムシをいただかねばなりませんな。ノーマン・フレイザー=フリーア中尉はたった今、兄殺しを告白した。洗いざらい告白させ、調書をとるところだったんだよ」

 「それはそれは!」ヒューズの声は落ち着いていました。「面白い……実に面白い。しかし賭けに負けたと言う前に、そしてあなたが中尉にむりやり一部始終を告白させる前に、一つ言いたいことがあるのです」

 「話したまえ」ブレイはにやりと笑いました。

 「今朝あなたが親切にも部下を二人貸してくださったとき、私はある女性の逮捕を考えていると申しました。その女性をスコットランドヤードに連れてまいりました」彼はドアに歩み寄り、手招きをしました。背の高い、金髪の、目鼻立ちの整った三十五歳くらいの女性が入ってきました。途端にあのライラックの強い匂いが私の鼻をうったのです。「警部、ご紹介します。以前ベルリン、デリー、ラングーンにお住まいで、現在はバターシー・パーク街リートリム・グローブ十七番地にお住まいのソフィー・ド・グラフ伯爵夫人です」

 女性はブレイとむかい合いました。その目には怯え、やつれた色が浮かんでいました。

 「あなたが警部さんですか」彼女は尋ねました。

 「そうだが」とブレイ。

 「しかも人間らしい心をお持ちとお見受けしました」彼女は怒りのこもった目でヒューズを見ながらつづけました。「お願いですから、この……この悪魔の残忍な質問から私を守ってくださいまし」

 「伯爵夫人、お言葉が過ぎますよ」とヒューズは微笑みました。「でも、さきほど私に話してくださったことを警部にもしていただければ、喜んでお許ししましょう」

 女性は唇を固く閉ざし、長いことブレイ警部の目をじっとみつめていました。

 「この人に」と彼女はヒューズ大佐のほうを顎で示しながら、ようやく言いました。「私、この人に白状させられましたの……どうして白状したのか、自分でも分かりませんわ」

 「なにを白状したって言うんだ?」ブレイは小さな目をぱちぱちさせました。

 「先週の木曜日の夕方、六時半に」と女性が言いました。「私はアデルフィ・テラスの大尉の部屋に行きました。口論になり、私は机の上にあったインドの短剣をつかみ……彼の心臓の真上に突き立てたのです!」

 スコットランドヤードのその部屋に緊張した沈黙が訪れました。私たちは、初めて、警部の机の上の小さな時計に気がつきました。というのもそれが突然、ぎくっとするほど大きな音を立てて、時を刻みはじめたからです。私はまわりの人々の顔を見ました。ブレイはつかの間、驚いた表情をあらわしましたが、すぐまた仮面をかぶってしまいました。フレイザー=フリーア中尉はただただ呆然という様子。ヒューズ大佐の顔には、あからさまなせせら笑いのようなものが浮かんでいました。

 「話をつづけてください、伯爵夫人」彼はにやにや笑っていました。

 女性は肩をすくめ、軽蔑するように彼に背中をむけました。彼女の目はじっとブレイだけをみつめていました。

 「お話といっても、とても短いものです」彼女は急いで言いました。それは私にはほとんど謝罪するかのように聞こえました。「私はラングーンで大尉と知り合いました。夫がそこで仕事をしていたのです。米の輸出を。フレイザー=フリーア大尉はよく私たちのうちへ来ました。私たち……魅力的な方でしたわ、大尉は……」

 「どうぞその先を」とヒューズは促しました。

 「私たちは我を忘れるほど愛し合うようになりました」伯爵夫人は言いました。「たしか賜暇休暇をもらったということでしたが、あの人がイギリスに帰るとき、彼はもう二度とラングーンには戻らないだろうと言ったのです。彼はエジプトに転属されるだろうと思っていました。だから私は夫を捨て、次の船で彼の後を追う用意を整えたのです。私は大尉を信じて、ほんとうに私を愛しているのだと思って、そうしました。私は彼のためにすべてを捨てたのです。なのに……」

 声が途切れ、彼女はハンカチを取り出しました。またあのライラックの匂いが部屋の中に満ちました。

 「ロンドンに来てから、しばらくのあいだ、私はよく大尉に会っていました。そしてある変化に気がつき出したのです。おなじイギリス人の中に戻って、インドでの孤独な日々は単なる思い出になったのでしょうか、彼はもはや……私を好きではなくなったようなのです。そして先週の木曜日の朝、彼は私を訪ねてきて、私たちの関係はこれまでだ、もう私に会いたくはない……実はずっと待ってくれていたイギリス人の女と、結婚する予定なのだと言うのです……」 女性は哀れな様子で私たちを見回しました。

 「私は絶望しました」彼女は熱をこめて言いました。「私は人生のすべてを捨てたのです……今や私を冷たく見すえ、他の女との結婚を口にするような男のために。私がその日の夕方、彼の部屋に行き……訴え……膝もつかんばかりに懇願したのは不思議なことでしょうか。しかし無駄なことでした。関係は終わったのだ、彼は何度も何度もそう言いました。私は理性を失い、怒りと絶望にかられ、机からナイフをつかみ上げると、彼の心臓に突き立てました。私はすぐに後悔の念で一杯になりました。私は……」

 「ちょっとお待ちください」とヒューズが割りこんできました。「その後の行動の詳細は、後ほどうかがいましょう。すばらしいですな、伯爵夫人。回を重ねるごとにお話が上手になる」

 彼はブレイのほうに歩み寄り、顔を突き合わせました。私は彼の声にはっきりと敵意の響きを聞き取りました。

 「警部、王手ですよ」彼は言いました。

 ブレイはなにも言いません。彼は椅子に座り、大佐を見上げました。その顔は石のようでした。

 「コガネムシのネクタイピンは」とヒューズはつづけました。「まだ手に入りませんぞ。勝負は引き分けです。あなたは自白を手に入れた。しかし私もおなじように自白を手に入れた」

 「信じられん」ブレイが怒ったように言いました。

 「私にとってもいささか信じがたい事態です」と大佐が答えました。「ここに先週の木曜日の夕方六時半にフレイザー=フリーア大尉を部屋に訪ねて殺害したと信じてもらいたがっている方が、二人もいらっしゃる」

 彼は窓のほうへ歩いて行ったかと思うと、芝居がかった身のこなしでくるりと振り返りました。

 「なかでもいちばん奇怪なのは」と彼はつづけました「木曜日の夕方六時半、ソーホーの人目につかないレストラン・フリガッチで、この二人が一緒にお茶を飲んでいたということです!」

 大佐が落ち着き払ってこの情報を差し出したとき、私たちが巻きこまれた謎が終りなき迷宮であることに気づき、私は急に全身から力が抜けてしまったことを認めなければなりません。女性は小さく叫び、フレイザー=フリーア中尉は飛びあがりました。

 「どうしてそんなことを知っているんだ」彼は大声をあげました。

 「知っているのですよ」とヒューズ大佐。「私の部下の一人が、たまたま近くのテーブルでお茶を飲んでいたのです。たまたま部下がそこでお茶を飲んでいたのはですね、こちらの女性がロンドンに到着してからというもの、インドの……なんですよ……友達から依頼がありましてね、私は彼女の動きを逐一追っていたのです。あなたのお兄さん、お亡くなりになった大尉を見張っていたのとおなじようにね」

 フレイザー=フリーア中尉は、なにも言わず椅子に沈みこみ両手で顔を覆いました。

 「ご同情いたします」ヒューズは言いました。「心から同情しますよ。あなたは自分を犠牲にして事実を隠そうとした。立派な男らしい努力でした。しかし陸軍省はあなたよりずっと前から知っていたのです、あなたのお兄さんが、こちらの女性の誘惑に屈し、祖国イギリスのために働くのではなく、彼女とドイツのためにスパイを働いていたことをね」

 フレイザー=フリーアは頭をあげました。彼が話すその声には、先ほどの途方もない告白をしたときより、はるかに誠実な調子がありました。

 「万事休すですね」と彼は言いました。「ぼくは自分にできることをすべてやりました。父にとっては大打撃でしょう。僕たちは名誉ある一族なのです、大佐。ご存知でしょうが……何代にもわたる軍人の家系で、祖国への忠誠はかつて一度も疑われたことがありません。僕が告白しさえすれば、このいやな事件にけりをつけられる、捜査を終らせ、彼……兄のいまわしい所業を永遠に隠してしまえると思ったのです」

 ヒューズ大佐は青年の肩に手をかけました。青年は話をつづけました。

 「僕の耳にも人づてに届いていました……スティーブンに対するおそろしい、遠まわしな中傷は。ですから兄がインドから帰ってきたとき、見張っていようと決心したのです。兄はこの女の家にしばしば行きました。僕は彼女がラングーンから届いた噂の女と同一人物であることを確かめました。そして変名を使って、なんとか彼女と会う約束を取り付けたのです。僕は、僕自身も忠誠心とは縁がない人間であることをそれとなくにおわせました。全面的に信用されたわけではありませんが、ある程度は彼女の信頼を得ることができました。僕はしだいに、兄が国家にも、一族の名声にも、僕たちみんなに対してもほんとうに裏切りを働いていることを確信するようになりました。僕がとうとう決意したのは、あなたがおっしゃったお茶の席でのことです。僕はすでに拳銃を買っていました。それをポケットに入れて、夕ご飯を食べにサボイ・ホテルへ行ったのです」

 彼は立ち上がり部屋の中をゆっくり行ったり来たりしました。

 「僕はサボイ・ホテルを早めに出て、スティーブンの部屋に行きました。議論して決着をつけようと、事実を遠慮なく兄に突きつけてやろうと、心に決めていたのです。そしてもしも説明がなかったなら、僕はその時、その場で、兄を殺すつもりでした。お分かりでしょう、僕は現実に罪は犯していませんが、罪を犯そうとする意志はあったのです。僕は兄の書斎に入りました。そこは見知らぬ人々で一杯でした。ソファには兄のスティーブンが横たわっていて……心臓をひと突きされて……死んでいました」一瞬、沈黙がありました。「それがすべてです」とフレイザー=フリーア中尉が言いました。

 「私が思いますに」とヒューズが優しく言いました。「中尉の取り調べはこれで終ったのじゃありませんか。どうです、警部」

 「ああ」ブレイはぶっきらぼうに言いました。「君は帰ってもよろしい」

 「ありがとうございます」と青年は答えました。出て行くとき、彼はヒューズにむかって途切れ途切れに「お父さんを……さがさなくちゃ」と言いました。

 ブレイは椅子に座って、怒ったように顎を突き出しながら、前方を厳しく睨んでいました。突然、彼はヒューズのほうにむきを変えました。

 「フェアな戦い方じゃないな」と彼は言いました。「陸軍省が大尉を見張っていたなんて知らなかった。なにもかもいま初めて聞いた」

 「分かりました」ヒューズは笑って言いました。「お望みなら賭けは取りやめにしましょう」

 「とんでもない!」ブレイは大声で言いました。「賭けはまだ有効だ。しかも俺が勝って見せる。自分じゃなかなかの仕事をしたと思ってるだろうが、しかし、われわれは真犯人の発見に少しでも近づいたのかな。どうだね」

 「少なくとも幾分かはね」ヒューズが穏やかに答えました。「こちらのご婦人は、もちろん拘留されるんでしょうね」

 「そうだ、そのとおりだ」と警部は答え、「女を連れて行け!」と命じました。