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幽霊書店

Chapter 19: 訳者後記
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About This Book

An eccentric antiquarian bookseller presides over a smoke-filled secondhand shop he regards as a shrine to reading, offering personalized book prescriptions rather than conventional advertising. A young advertising copywriter arrives, sparking conversations about promotion, the therapeutic power of literature, and readers' hidden needs; he accepts the proprietor's hospitality and learns the shop's ways. The narrative uses the shop and its noticeboard of recommendations to stage debates about taste, postwar moral disquiet, and reading as cure, while comic and romantic threads involving other visitors gradually entwine with the bookseller's devotion to good books.

訳者後記

 この翻訳は1919年発行 Grosset and Dunlap 社版を底本にしました。

 訳出に当たって次の書籍を参考にしました。訳文をそのままお借りした物もあれば、一部変更して使わせていただいたものもあります。ここに記して感謝します。

 「ジョージ・ハーバート詩集」鬼塚敬一訳・著 南雲堂

 「続 ジョージ・ハーバート詩集——教会のポーチ・闘う教会」鬼塚敬一訳・著 南雲堂

 「天路歴程」竹友藻風訳 岩波文庫

 「エリザベス朝演劇集I」小田島雄志訳 白水社

 「O・ヘンリー ミステリー傑作選」小鷹信光編訳 河出文庫

 「コンラッド短編集」中島賢二訳 岩波文庫

 「豪華版世界文学全集38 世界詩集キーツ編」安藤一郎訳 講談社

 「シェイクスピア詩集」関口篤訳 思潮社

 「草の葉」酒本雅之訳 岩波文庫

 本書で紹介されている本は、一般になじみのないものも多いため、簡単な読書案内を附すことにしました。ただし私が住む札幌市の市立図書館に蔵書がある場合は、書名、訳者名、出版社名を記すだけにしました。それ以外はかつて訳が出ていたとしても、入手困難と見なし、説明を附けてあります。作者が適当に作ったと思われるタイトルは省略しました。また Internet Archive が絶版になっている本を公開してくれなければ、この読書案内は完成できなかったであろうことも言い添えておきます。

読書案内

序文

Parnassus on Wheels (1917) by Christopher Morley (1890-1957)

「幽霊書店」の前編に当る短い小説で、荷馬車に乗って田舎で本を売るミフリンがヘレンに出会い、大冒険の末結ばれるまでを描く。

第一章

Trivia (1902) by Logan Pearsall Smith (1865-1946)

断章形式で人生の諸相を一筆書きしたエッセイ集。ユーモアとメランコリーとシニシズムが軽くふりかけられた、しゃれた文章である。

The Story of My Heart (1883) by Richard Jefferies (1848-1887)

リチャード・ジェフリス「わが心の記」寿岳しづ訳 岩波文庫

Notebooks (1912) by Samuel Butler (1835-1902)

バトラーがふと思いついたアイデアを忘備録に残したもの。「道徳の基礎 これも他の基礎とおなじで、あまりほじくり返すと、その上の思想体系が崩れ落ちてくる」「人生は生きるに値するか そんなことは胎児が考えればいいのであって、人間が考えることじゃない」。

The Man Who Was Thursday (1907) by G. K. Chesterton (1874-1936)

G.K.チェスタトン「木曜の男」吉田健一訳 創元推理文庫

The Demi-Gods (1914) by James Stephens (1882-1950)

三人の天使がアイルランドの田舎に舞い下り、行商の父娘、おより驢馬と旅をする。アイリッシュ・ユーモアとペーソスにあふれた秀作。作者はアイルランドの作家・詩人で、ジェイムズ・ジョイスに、「フィネガンス・ウエイク」を書き終えることが出来なかったら、おまえが完成させてくれないか、と言われた男である。

The Works of Francis Thompson (1859-1907)

イギリスのカトリック系の家に生まれた詩人だが、アヘン中毒を患い、生活は苦しかった。「幽霊書店」第六章でミフリンが「フランシス・トンプソンの詩に出てくる猟犬」といっているが、これは神から隠れようとする者と、それをすさまじい勢いで追う神を描いた「天の猟犬」のこと。

Social History of Smoking (1916) by George Latimer Apperson (1857-1937)

イギリスにおける喫煙の歴史を辿りながら文学や風俗など、いろいろな知識が得られる楽しい本。「幽霊書店」の第一章でウォルター・ローリー卿が「たばこの守護神」と呼ばれているのは、卿がイギリスに初めてたばこを紹介した人だと思われているからだ。彼がたばこを吸っていたとき、召使いは主人が燃えていると思ってバケツの水をかけたそうだ。

The Path to Rome (1902) by Hilaire Belloc (1870-1953)

フランスからアルプスを越えてローマに至るまでの旅行記だが、ウイットと活気に満ちた語り口で旅行中の体験や作者の意見を語り、英米では未だに版を重ねる人気の一冊。作者は子供向けのライト・ヴァースでも有名。

The Book of Tea (1906) by Kakuzo (1863-1913)

岡倉覚三「茶の本」岩波文庫

Happy Thoughts (1868) by F. C. Burnand (1836-1917)

バーナンドは一八八〇年から一九〇六年まで「パンチ」の編集長をした。文筆家を志す男が、友人の田舎屋敷を経巡りながら、滑稽な体験を語る。イギリス的なユーモアが味わえるだけでなく、十九世紀後半の風俗を知る上でも興味深い一冊。

Dr. Johnson's Prayers and Meditations

ジョンソン博士(1709-1784)は初めて英語の辞書を作った、オーガスタン時代の文壇の大御所だが、彼のお祈りの内容を見ると「怠け癖を直し、寝る時間をきちんと守り、次の日の予定を立てて、日記をつけ、日曜日には教会に行くこと。神様、わたしの罪深い習慣が直るように力を与えてください」

Margaret Ogilvy (1896) by J. M. Barrie (1860-1937)

「ピーター・パン」の作者が、十四歳で死んだ兄や母親の思い出を綴った作品。不滅のキャラクター、ピーターとウエンディの創造の秘密を知りたいなら、この本は必読である。

Confessions of a Thug (1839) by Philip Meadows Taylor (1808-1876)

カーリー神の名の下に人殺しの儀式を繰り返すインドの秘密結社の話。作者がインドで警視を務めているとき、サグ団の殺人や窃盗のことを知り、小説化した。当時のベストセラー。

The Morning's War (1913) by C. E. Montague (1867-1928)

モンターギュはイギリスのジャーナリストで作家。四十代後半で第一次世界大戦の塹壕戦を経験している。タイトルをシェイクスピアの一節から取った本作は、オーブリーとジューンという、いとこ同士のロマンスを、独特の美文で描いている。アルプス登山の場面が鮮烈な印象を残す。

The Spirit of Man (1915) edited by Robert Bridges (1844-1930)

編者はイギリスの桂冠詩人。つまり国家的行事の際に詩を作るよう政府から正式に任命された人である。ジェラルド・マンリー・ホプキンスの詩を死後出版し、その名声を高らしめた人でもある。本書は英仏の詩のアンソロジー。

The Romany Rye (1857) by George Henry Borrow (1803-81)

作者はイギリスとヨーロッパを放浪し、ジプシーと交友を深めた。ヴィクトリア時代に、今でいう「オルターナティヴ」な生き方を求めた人だ。Lavengro「ラヴェングロー」とその続編に当たる本作は代表作。両者は完全な一続きの物語なので、読むなら「ラヴェングロー」から読まなければならない。

Poems by Emily Dickinson (1830-86)

「ディキンスン詩集」新倉俊一編 思潮社

Poems by George Herbert (1593-1633)

「ジョージ・ハーバート詩集—教会」鬼塚敬一訳 南雲堂

「続 ジョージ・ハーバート詩集—教会のポーチ・闘う教会」鬼塚敬一訳 南雲堂

The House of Cobwebs (1906) by George Gissing (1857-1903)

ジョージ・ギッシング「蜘蛛の巣の家」吉田甲子太郎訳 岩波書店

Erewhon (1872) by Samuel Butler (1835-1902)

サミュエル・バトラー「エレホン 倒錯したユートピア」石原文雄訳 音羽書房

The Way of All Flesh (1903) by Samuel Butler (1835-1902)

牧師の息子アーネスト・ポンティフェクスの成長を描きながら、ヴィクトリア時代に威圧的権威をふるっていた家とか教会を批判している。

Letters and Speeches of Oliver Cromwell (1845) by Thomas Carlyle (1795-1881)

クロムウエルの肉声を生き生きと伝えていると言われているが、私はミフリン夫人と同じで最初の数ページで読むのを放棄した。

第二章

The Home Book of Verse (1912) ed. Burton Egbert Stevenson (1872-1962)

一五八〇年から一九一二年に至るまでの英米の詩のコレクション。B. E. Stevenson は図書館司書で、本書と Home Book of Quotations (1934) の編者として有名。児童書やミステリーも書いている。

Weir of Hermiston (1896) by Robert Louis Stevenson (1850-94)

作者の死により未完に終わった作品。まず主人公とその父との葛藤が描かれ、その後は恋愛、恋人たちを引き裂く不吉な影と、確実な足取りで物語が進行していく。厳格な父親の描写は迫力がある。ミフリンが言う「爆発機関」は主人公の胸の中で激しく泣く恋人の様子を表した言葉。

Fireside Conversation in the Age of Queen Elizabeth (1880) by Mark Twain (1835-1910)

ベーコン卿、ウオルター・ローリー卿、ベン・ジョンソン、シェイクスピアなどの有名人や、その他貴婦人たちが処女王エリザベス一世を囲んで猥談にふけるという短い話で、エリザベス朝の文体で書かれている。ポルノまがいに地下出版されていた。

The Jungle Book (1894) by Rudyard Kipling (1865-1936)

キップリング「ジャングル・ブック」金原瑞人訳 偕成社

American Commonwealth (1888) by James Bryce (1838-1922)

作者はイギリスの法学者で歴史家。この本はアメリカの政府や政治の研究としてトックヴィルの「アメリカのデモクラシー」並に重要なものらしい。素人にも分かるように書かれていて、第一部第八章「なぜ偉大な人物が大統領に選ばれないのか」で指摘されるアメリカとヨーロッパの違いなどは目から鱗。

The Amenities of Book-Collecting and Kindred Affections (1918) by Edward A. Newton (1863-1940)

書籍蒐集の喜びを教えてくれるだけでなく、次々と繰り出されるゴシップ、文学談義がとても楽しい本。作者は生涯のうちに一万冊の稀覯本を集め、ウイットの効いた文章で、本にまつわるエッセイを幾つも著している。

The Cloister and the Hearth (1861) by Charles Reade (1814-84)

十五世紀ヨーロッパを舞台にした歴史小説。主人公は名もない庶民のカップルだが、ロマンス有り、陰謀有り、再会有り、しかも彼らがエラスムスの両親だったというサービス満点の物語。平明な文章で、話にスピード感がある。

Tarzan of the Apes (1914) by E. R. Burroughs (1875-1950)

エドガー・ライス・バローズ「ターザン」厚木淳訳 創元社文庫。映画は1918年に公開。

第三章

The Wealth of Nations (1776) by Adam Smith (1723-1790)

アダム・スミス「国富論」大河内一男監訳 中公文庫

Society in Rome under the Caesars (1888) by William Ralph Inge (1860-1954)

イングは神学者で、セント・ポール大聖堂の主任司祭だった。ペシミスティックな思想の持ち主で「憂鬱な主任司祭」と呼ばれた。本書はローマ帝国の文化・社会を詳説したもの。

The Statesman's Year Book

世界各国の政治、経済、文化の状況を報告するもので、一八六三年からイギリスで出版され続けている。

The Letters of Queen Victoria (in three volumes) (1907) edited by Arthur Christopher Benson and Viscount Esher

ヴィクトリア女王 (1819-1901) は帝国を広げていった時期のイギリスの象徴で、膨大な手紙と日記を残している。最盛期のイギリスに君臨した女王が時には断固とした意見を述べ、時には女としての胸の内を語る。

On a Slow Train Through Arkansaw (1903) by Thomas William Jackson (1867-1934)

I'm From Texas, You Can't Steer Me (1907) by Thomas William Jackson (1867-1934)

女、ユダヤ人、黒人、アイルランド人などに対する差別的でくだらないジョーク集。タイトルに意味はない。

Brann the Iconoclast (1919) by William Cowper Brann (1855-1898)

ブランは人種偏見と独善的な意見で知られたアメリカのジャーナリスト。バプテスト派の大学を攻撃し、大学の支持者に撃たれたが、死ぬ前に銃を奪って相手も殺してしまった。本書は彼の著作集。

Tom Jones (1749) by Henry Fielding (1707-1754)

ヘンリー・フィールディング「トム・ジョウンズ」朱牟田夏雄訳 岩波文庫

Causeries du lundi (1851-1862) by Charles Augustin Sainte-Beuve (1804-1869)

サント・ブーヴ「月曜閑談」土井寛之訳 富山房

"St. Agnes' Eve" (1819) by John Keats (1795-1821)

ジョン・キーツ「新訳キーツ詩集」高島誠訳 彌生書房

Over Bemerton's, an easy-going chronicle (1908) by Edward Verrall Lucas (1868-1938)

ブエノス・アイレスからロンドンに戻り、古本屋の二階に下宿する五十五歳の独身男を主人公にしたロマンス。本屋で働きながら教養を身につけた作家のもっとも有名な作品。「幽霊書店」と同じように物語の中でさまざまな書籍の紹介をしている。

Tribune Primer (1882) by Eugene Field (1850-1895)

作者はアメリカのジャーナリストで子供向けの詩を書いた。本書は子供向けの初等読本の文体で書かれたスケッチ集である。詩にもスケッチにもナンセンスな味わいがあって楽しい。ちなみに本章に出てくる「書物の喜び」"biblio-bliss" という言葉は、十八世紀イギリスの書誌学者 Thomas Frognall Dibdin が登場する Field の詩 "Dibdin's Ghost" からきているのだろう。

Archy by Don Marquis (1878-1937)

ドン・マーキスはゴキブリ・アーチーの詩で有名なユーモア作家。一九一六年から新聞に連載され、ジョージ・メリマンのイラストと共に archy and mehitabel (1927) 以下数冊にまとめられている。ミフリンが引用している詩は The Old Soak and Hail and Farewell (1921) に収められている。

"Love in the Valley" (1878) by George Meredith (1828-1909)

「エゴイスト」や「リチャード・フェヴェレルの試練」を書いたメレディスは漱石にも影響を与えた小説家・詩人。本作は恋心と自然描写が精妙に融け合う彼の詩の代表作。

The Nigger of the Narcissus (1897) by Joseph Conrad (1857-1924)

「ナーシサス号の黒人」高見幸郎訳(筑摩書房 世界文学大系86所収)

Christmas Stories by Charles Dickens (1812-1870)

1857年から1867年までに書かれた短編二十編を納める。第四章でロジャーが朗読する「だれかの手荷物」(1862) もこの中に含まれる。

The Wrong Box (1889) by R. L. Stevenson (1850-1894)

ロバート・ルイス・スティーヴンソン「箱ちがい」千葉康樹訳 国書刊行会

Travels with a Donkey (1879) by R. L. Stevenson (1850-1894)

ロバート・ルイス・スティーヴンソン「旅は驢馬をつれて」吉田健一訳 岩波書店

The Four Horsemen of the Apocalypse (1916) by Vicente Blasco Ibanez (1867-1928)

第一次大戦中に書かれた長大な反戦小説で、美男俳優ヴァレンチーノが主演する映画 (1921) にもなった。黙示録の四騎士とは死、疫病、戦争、飢饉のことで、これが今でも世界中を駆けめぐっている。

Walking-Stick Papers (1918) by Robert Cortes Holliday (1880-?)

軽妙な筆致の随筆集。作者によると、日本人(といっても明治時代の日本人だ)は書店主に恐れられていたらしい。三文小説には決して手を出さず、よく分からない英語で、入手困難な哲学や政治の専門書を求めるからだそうだ。

Jo's Boys (1886) by Louisa May Alcott (1832-1888)

ルイザ・メイ・オルコット「第四若草物語 ジョーの少年たち」吉田勝江訳 角川文庫

The Lays of Ancient Rome (1842) by Thomas Babbington Macaulay (1800-1859)

マコーレーは詩人で歴史家で政治家。本書は古代ローマの英雄をうたったバラッド集。「この世にあるものには 必ず死が訪れる ならば何よりも良い死に方は 強き敵に立ち向かうこと 自らの父の霊のために 自らの神の神殿のために」

Austin Dobson (1840-1921)

ドブソンはイギリスの詩人でエッセイスト。ちょっと俗っぽいところもあるが、軽やかな調子のエレガントな詩を書いている。

Whispers about Women (1906) by Leonard Merrick (1864-1939)

パリでボヘミアン的な生活を営む芸術家や芸人たちの滑稽なエピソード集。ジョージ・オーウェルが Good Bad Books の中で、二流には違いないが、それなりに誠実さがあって小説の本質や、その衰亡の理由についてなにがしかを語ってくれる小説家の一人と言っている。

The Dynasts (1903-1908) by Thomas Hardy (1840-1928)

ナポレオン戦争を描いた壮大な詩劇。庶民、軍人、精霊たち、総勢百名以上が、宇宙を支配する盲目的な力に翻弄されながら、ヨーロッパや天界を舞台に一大パノラマを展開する。

第四章

Sartor Resartus (1831) by Thomas Carlyle (1795-1881)

トマス・カーライル「衣服哲学」石田憲次訳 岩波文庫

Making Life Worth While (1918) by Douglas Fairbanks (1883-1939)

ダグラス・フェアバンクスといえば「ゾロ」 (1920) とか「三銃士」(1921) の映画俳優だが、同時に自己啓発の本を何冊も著している。ダグのしあわせの処方箋とは、「謙虚であること、いつも良い機嫌でいること、肉体を鍛錬すること」。

Mother Shipton's Book of Oracles

マザー・シプトンは十五世紀にイギリスのヨークシャーに生まれたという伝説的な予言者。本書の特定は出来なかったが、この手のいかがわしい本はいつの時代にもあふれている。

"A Christmas Carol" (1843) by Charles Dickens (1812-1870)

チャールズ・ディケンズ「クリスマス・キャロル」脇明子訳 岩波少年文庫

"Somebody's Luggage" (1862) by Charles Dickens (1812-1870)

クリストファーという給仕が勤める宿屋には、ある客が置いていった荷物が保管されていた。宿のおかみは客の連絡を待っていたが、何年も音沙汰なし。クリストファーがおかみからその荷物を買い取って中を確かめると、小説の原稿がでてくる。彼はそれを出版社に売り飛ばすが、間の悪いことにその直後に荷物の持ち主が宿にやってきた!

"The Anarchist" (1906) by Joseph Conrad (1857-1924)

ジョウゼフ・コンラッド「無政府主義者」(「コンラッド短編集」中島賢二編訳 岩波文庫に所収)

第五章

The Man on the Box (1904) by Harold MacGrath (1871-1932)

立派な家柄の若き退役軍人ボブが、ふとしたいたずらをきっかけに、ひそかに思いを寄せる美しい貴婦人の屋敷に、身分を隠し、御者として奉公することになる。アメリカ上流階級・政界を舞台にした冒険とロマンス。

A Houseboat on the Styx (1895) by John Kendrick Bangs (1862-1922)

あの世で有名人がユーモラスな会話を交わし、騒動を起こすファンタジー。文学的なギャクが面白い。シェイクスピア=ベーコン説に対して、シェイクスピアが「あれはおれが書いたんだ」と主張すると、ベーコンが「そうだね、僕が口述して、きみが書き取った」という具合。

A Girl of the Limberlost (1909) by Gene Stratton-Porter (1863-1924)

ジーン・ポーター「リンバロストの乙女」村岡花子訳 角川書店

The Divine Fire (1904) by May Sinclair (1863-1946)

本屋の息子リックマンは古典に通じ、詩才を持った若者である。とある蔵書家のカタログを作るように頼まれ、そこで美しいルーシアと知り合い、恋が芽生える。怪奇を描いているわけでもないのに、なんとなく不気味な、独特の雰囲気を持った文章である。

Heart Throbs edited by Joe Mitchell Chapple

一九〇四年、ボストン・ナショナル・マガジンの出版者 Chapple が、賞金つきで「ときめき」を与える話を公募し、一冊の本にした。これが好評で、一九一一年に続巻が出ている。

第六章

The Winning of the Best (1912) by Ralph Waldo Trine (1866-1958)

作者は十九世紀の新思想運動の指導者の一人。人間の内なる力を認識し、それを神の意志と調和させることで、健康、愛、成功、平和が得られると主張する。

"Happy Warrior" (1804) by William Wordsworth (1770-1850)

理想の戦士とはどのようなものか、その特質を延々と綴った詩。「それは寛大なる精神 現実の問題に突き当たったとき 子供心を満足させるような方策を見出す精神だ」

Underwoods (1887) by R. L. Stevenson (1850-1894)

「宝島」の作者の詩集。冒頭にこんな詩が据えられている。「私の詩はどの一行も気に入らない でも題名は私のではないから気に入っている この題名はすぐれた人から盗んだものだ 全部盗むことが出来たらどんなによかっただろう!」

Rollo books by Jacob Abbott (1803-1902)

作者は牧師・教育家。ロロという男の子を主人公にした児童書を何冊か書いている。私は「森の中のロロ」しか読んだことがないが、ものを作る知恵と工夫、感情に流されない判断力、相手の気持ちを理解・尊重することの大切さを、あまり教訓臭くならずに説いている。

The Late Mrs. Null (1886) by Frank Stockton (1834-1902)

ロベルタ嬢に恋するクロフト青年は、彼女のかつての恋人ケズウィック氏のことを知ろうと「情報屋」に調査を依頼する。調査員はナル夫人と名乗ってケズウィック氏の実家に行くのだが、なぜか彼女はその家のことを自分の家の如く知っているのだ。個性豊かな脇役たち、上品なユーモア、暖かい人間性と、ストックトンらしい小説。

Dere Mable (1918) by Edward Streeter (1891-1976)

That's Me All Over Mable (1919) by Edward Streeter (1891-1976)

戦場の無教養な一兵卒が恋人のメイベルに手紙を書く。野卑なユーモアに満ちているが、そこに戦争の不条理が感じられるのも事実である。「おまえのおっかさんのあみかけの手袋、送ってくれてありがとよ。手の指、弾にふっとばされたら、役に立つ日もあろうってものよ」

The Iliad by Homer (B.C. 9 c.)

ホメーロス「イーリアス」呉茂一訳 岩波文庫

Essays (1597) by Francis Bacon (1561-1626)

フランシス・ベーコン「ベーコン随想集」渡辺義雄訳 岩波文庫

"Year that trembled and reeled beneath me" by Walt Whitman (1819-1892)

Leaves of Grass (1855-1892)に所収の一編。ウオルト・ホイットマン「草の葉」酒本雅之訳 岩波文庫

Mr. Britling Sees It Through (1916) by H. G. Wells (1866-1946)

著名な作家ブリトリング氏が、第一次世界大戦やイギリスの社会について意見を述べる。大戦中にイギリスでもっともよく読まれ、ゴーリキーも賞讃した小説。

Men in War (1918) by Andreas Latzko (1876-1943)

六つの連作短編からなる本書は、戦争という病理をグロテスクなまでに解剖している。まさに「わたしたちの心が何を病んでいたのかを知る」には格好の作品である。作者はオーストリア・ハンガリー軍の兵科将校だったが、戦争の悲惨を目の当たりにして軍務を放棄した。

Areopagitica (1644) by John Milton (1608-1674)

時の政府が出版物の検閲を目論んだとき、「失楽園」の作者は抗議の声を上げた。「本は息絶えた死物ではない。それを生んだ魂と同じくらい活発な生命力を宿しているのだ」「良書を殺す者は理性そのものを殺す者である」さすが大詩人、迫力の獅子吼。ロジャーはこのパンフレットから大いに影響を受けている。

J'accuse (1915) by Richard Grelling (1853-1929)

真実に目をつぶり、プロパガンダに踊るドイツを目覚めさせようと、ドイツの戦争の犯罪性を暴いて見せたもの。わたしが読んだのは英訳版だが、熱のこもった激しい口調で書かれている。

The Vandal of Europe by Wilhelm Muehlon

著者は兵器を製造していたクルップ・コンツェルンの所長をしたこともある人。戦争への道を選択したドイツを内部告発している。戦争の責任は政府だけにあるのではない。ドイツの政治的、社会的、道徳的構造がこぞって戦争に突き進んだのだ。英語版は一九一八年出版。

Lichnowsky's private memorandum (1916) by Karl Max Fuerst von Lichnowsky (1860-1928)

作者は一九一二年から一九一四年まで駐英大使だった。第一次大戦勃発を防ごうと努力したが、政府からの支持を得られなかった。その間の事情をパンフレットとして書き、密かに配布したところ、一九一八年、連合国側が勝手にこれを出版し、彼はプロシアの上院から追放された。

Au-Dessus de la Mele (1915) by Romain Rolland (1866-1944)

ロマン・ロラン「戦いを越えて」(「ロマン・ロラン全集十八」所収 宮本正清他訳 みすず書房)

Le Feu (1916) by Henri Barbusse (1873-1935)

アンリ・バルビュス「砲火」田辺貞之助訳 岩波文庫

Civilization (1918) by Georges Duhamel (1884-1966)

第一次世界大戦中、野戦病院での兵士の悲惨な様子を描いた短編連作で、ゴンクール賞を受賞している。

The Meaning of Death (1914) by Paul Bourget (1852-1935)

ポール・ブルジェ「死」木村太郎訳 小山書店

A Student in Arms (1917) by Donald Hankey (1884 -1916)

神学を学び、前線に参加した作者が「スペクテイター」に匿名で掲載した、戯曲、エッセイ、戦場日誌などいろいろな形式の文章を集めたもの。実際に塹壕の中で書かれたらしい。「戦争から離れているとき、栄光とか英雄的行為について語るのは簡単だ。記憶がおぞましい細部を和らげるから。しかし、ここ、ばらばらにされ苦しめられた死者の前では、人は戦争の恐怖と邪悪しか感じることができない」

The Tree of Heaven (1917) by May Sinclair (1863-1946)

ウエスト・エンドに邸宅を持つハリソン家の、性格の違う子ども達の成長を描いた家庭小説。一八九五年以降の世相(ボーア戦争、女性参政権運動、第一次世界大戦など)を映し出している。一九一八年のベストセラー。

Why Men Fight, by Bertrand Russell

バートランド・ラッセル「世界の大思想26」所収 松本悟朗訳 河出書房新社

Letters of Arthur George Heath with Memoir by Gilbert Murray (1917)

ヒースの個人指導教師で、後にオクスフォード大学の同僚となったマレーによって編まれた。二十八才の誕生日に戦死した、優秀な研究者が、戦場から主に両親に書き送った手紙を集めている。

Professor Latimer's Progress (1918) by Simeon Strunsky (1879-1948)

第一次大戦をきっかけに心を病んだラティマー教授が、療養のため田舎を経巡るのだが、その過程でさまざまな文明批評が展開される。作者はロシアで生まれ、ニューヨークで育ち、ジャーナリストとして活躍した。

The Education of Henry Adams (1918) by Henry Adams (1838-1918)

父親は公使、祖父と曾祖父は大統領という作者が、まるで自分を客観視するような三人称で、時にユーモアと諧謔を交え、思想遍歴を語る。歴史を「加速の法則」とかダイナモといった物理学的イメージでとらえている点が興味深い。

The Life and Opinions of John Buncle, Esq. (2 vols., 1756, 66) by Thomas Amory (1691?-1788)

理想的美質を備えた女性と結婚・死別を七回も繰り返すとんでもない男の話である。

Ten Thousand a Year (1839) by Samuel Warren (1807-1877)

しがない服地屋の店員が文書を偽造し莫大な遺産を受け取るのだが……。エドガー・アラン・ポーがこの作品のことをプロットもないし、文章はぞろっぺえだし、最初から最後まで金という俗情に訴える主題を扱っているから注目を浴びただけだ、とけなしている。

Peter Simple (1834) by Frederick Marryat (1792-1848)

海軍士官候補生ピーターがナポレオン戦争の最中に富と名誉を求めて冒険に出る。作者は海洋小説の先駆者の一人なのだが、ユーモアのセンスが抜群である。本書もそうだし、代表作 Mr Midshipman Easy (1836) も枕を叩き、涙をこぼして読む本である。

第七章

"Gift of the Magi" by O. Henry (1862-1910)

「O.ヘンリー短編集2」大久保康雄訳 新潮文庫

Rolling Stones by O. Henry (1862-1910)

これは短編集なのだが、オーブリーが他の作家に完成させたいと言っているのは絶筆になった「夢」という作品だろう。嫉妬に駆られた男が恋人を殺し、死刑執行の直前に幻を見る、幸せそうな恋人と、彼らの子供の幻を、という話になるはずだったらしい。

第八章

Paradise Lost (1667) by John Milton (1608-1674)

ジョン・ミルトン「失楽園」平井正穂訳 岩波文庫

The Blazed Trail (1902) by Stewart Edward White (1873-1946)

作者はアメリカ西部の自然を舞台に冒険物語を幾つも書いている。本書は伐木搬出業の裏面を暴いた、いわゆるマックレイキングな本でベストセラーになった。

Rudder Grange (1891) by Frank Richard Stockton (1834-1902)

ストックトンは、高名な短編「女か、虎か」を書いた人。本書は若い夫婦がボートを住み家とし、下宿人とお手伝いのポモナと共に愉快な騒動を繰り広げる話。みんな一生懸命なのだが、ちょっとどこかが抜けていて、たまらなく可笑しい。

第九章

Helen's Babies (1876) by John Habberton (1842-1921)

二十八歳の独身男が、二週間のあいだ、姉夫婦の二人の子供の面倒を見ることになった。ところがこの二人、近所の人から小鬼と綽名される大変なやんちゃだった。もちろんこの後は映画でよくある「子供 vs. 大人」のコメディが展開される。

The Ballad of Reading Gaol (1898) by Oscar Wilde (1854-1900)

オスカー・ワイルド「ワイルド全詩」日夏耿之介訳 講談社文芸文庫

Confessions of a Little Man During Great Days (1916) by Leonid Nikolaevich Andreyev (1871-1919)

アンドレーエフはロシア人作家。当時欧米で注目され、新作が出るとすぐ翻訳された。本作はロシアの小市民が第一次大戦に動揺させられる日々を日記の形で描き出している。本書の後半、ジェノサイドに遭った村の母子のエピソードはあまりにも痛ましい。

King Lear (1606) by William Shakespeare (1564-1616)

ウィリアム・シェイクスピア「リア王」小田島雄志訳 白水Uブックス

第十章

The Wishing-Cap Papers (1873) by Leigh Hunt (1784-1859)

作者は進歩的な雑誌 The Examiner を創刊し、随筆や批評を各新聞に書いていたジャーナリストである。本書は彼の軽妙な随筆集。

Philip Dru (1912) by Edward Mandell House (1858-1938)

富が少数者に集中する不公平なアメリカに不満を持つ若き軍人フィリップ・ドルーが、視力を失ったことをきっかけに、社会改革活動に身を投じる。小説としてはごく稚拙なもの。作者は民主党の「陰の大物」で、第一次大戦中ウィルソン大統領の相談役を演じた。

The Flying Inn (1914) by G.K. Chesterton (1874-1936)

一種の禁酒法がイギリスで施行され、それに反発した二人の男がラム酒を積んだ荷車を牽いて田舎を放浪する。作者は自分の著作の中でいちばん書くのが楽しかったと言っている。ミフリンがいうように、作中には「お茶は東洋人だが すくなくとも紳士だ ココアはげすの卑怯者 ココアは野卑な犬畜生」という詩がある。

Leaves of Grass (1855-1892) by Walt Whitman (1819-1892)

ウオルト・ホイットマン「草の葉」酒本雅之訳 岩波文庫

The Anatomy of Melancholy (1621) by Robert Burton (1577-1640)

当時の流行病、憂鬱症の症状や治療法を述べた学問的な医学書だが、あらゆる分野から関係する引用を並べ立てた雑学の本でもある。

"Incident of the French Camp" by Robert Browning (1812-1889)

少年兵が胸に致命傷を負っているにもかかわらず、ラティスボン陥落の知らせをナポレオンにもたらし、彼に見守られ死んでいくという短い詩。ミフリンが「ねずみ云々」といっているのはラティスボン "Ratisbon" の "Rat" に引っかけた洒落。

History of Frederick the Great (1858-65) by Thomas Carlyle (1795-1881)

オーブリーが「カーライルはドイツびいきだった」といっているが、確かにドイツ哲学・文化の影響を大きく受けていた。また民主主義を嫌い、英雄を崇拝したためか、本書はヒトラーのお気に入りだったという。

第十三章

Tooke's Pantheon

イエズス会士 Francois Pomey (1618-1673) が書いた有名な神話の本をイギリス人アンドリュー・トゥック (1673-1732) が一六九八年に英訳したもの。後の版に附けられたアメリカ人の版画家 G.フェアマンの挿絵はちょっと有名。

第十五章

How to Be Happy Though Married

E. J. Hardy が一九一〇年に書いた本だろうか。この手のタイトルの本はよく出版される。

Urn Burial (1658) by Thomas Browne (1605-1682)

トマス・ブラウン「医師の信仰・壺葬論」松柏社 生田省悟、宮本正秀訳

The Love Affairs of a Bibliomaniac (1896) by Eugene Field (1850-1895)

詩人にして猟書家でもあった著者の絶筆。読書遍歴や書籍に関する蘊蓄が、愛情深く、すがすがしい文体で綴られる。

Book of Deplorable Facts by John Mistletoe

John Mistletoe は実在の作家ではなく、モーリーの空想上の作家、ある意味では alter ego とも言うべき存在で、他の作品やエッセイにもよく名前や引用が出てくる。